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 「君に損をさせようとは思っておらんよ」と吾輩は言った。「吾輩がしたことについて、或いはしなかったことについての話はなしにしよう。とにかく君は、吾輩が君にそうさせない限り、吾輩に支払いをする能力はない。吾輩はこいつの為に君の千ドルを君にやるが、それは単に吾輩がこれを欲しいからだ。君が自分のゾウムシの如き卑しい背中を叩いて、吾輩に (、、、 )親切を施したのだなどと考えて貰っては困る。こいつは、五、六百ドル以上は一セントの値打ちもない。ここに手形がある。領収書をくれ、でないと、次は吾輩が払いを済ませていないと言い張るだろうからな。おお、何も言わんでいい。吾輩、君には些かウンザリしているんだよ!」と吾輩は彼に言った。

 彼は言い訳をしようとした。だが吾輩は手形を差し出して領収書を待っただけであった。それから、わざわざ彼の首に飛び付いてサヨナラを言ったりなぞせずに、吾輩は腕の下に古い青銅の山羊の神像を押し込んで店の外へ歩き出た。

 何はともあれ、吾輩思うに、この小さな一件はそれなりにいい思い出になるであろう。

 船室に戻り、扉に錠を下ろすと、吾輩は神像の台座にある隠された開口部を作動させ、それからそっと優しく、吾輩が、フアル・ミゲットを息子の衣服を取りに遣らせた隙に木乃伊のケースから取り出し、〈山羊〉の神像の中に隠しておいた琥珀の神〈クフ〉を、空ろな内部から滑り出させた。

 吾輩はかなり愉快に、あの卑しい魂を持った混合物が、黄色い神様が消えていることを発見した時どう思うだろうかと考え続けた。恐らく(最早強欲の薬物によってくたばった儘ではない)迷信の助けを借りて、彼は何かあり得ざる説明を思い付くことであろう。ともあれ、彼がその損失について(総裁の弁髪についてのきらびやかなヨタ話に倣って)吾輩に詳しく聞かせてくれることは先ずあるまい。昨日と今日の彼の不機嫌は恐らく、理解出来るものである。琥珀の神像を盗むことは、金のことは言うまでもなく、時間や労働を投資する対象としては有益とは言えなかった訳だ。

 悪趣味極まりない琥珀の素晴らしい彫像を見ている内に、吾輩は、この一件に於て自分の取った行動に深い満足を覚えずにはいられなかった。フアル・ミゲットは、数々の望ましからざることの為に罰を受けるに値する。それにまた、フアル・ミゲットと同じく吾輩も、小さな琥珀の怪物に対してたっぷりと金を出してくれる蒐集家を知っているのである。












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