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 歩いて行ってやがて、吾輩は中国人の店の外で立ち止まった。吾輩は漆塗りの箱をまじまじと見た。歩行者用の竹の杖、中国の神像………とある異教の神々の、バーミンガム製の愉快なヴァリエーション。吾輩は心から感服した。少なくともそう見えたことを願う。吾輩は内心ではもっと面白がっていた。何故ならば、無知が生み出し、そして軽信に対して日々科されている、幻想的で不可能なことどもを認識するところの、 言うなれば「(かみ )学」について、充分な知識を持っていたからである。そこには、その全ての「曲線」が物語を物語る筈なのであろう、そしてより無知な者に対して(屡々曖昧な)暗示を為すのであろう数々の神像があった。しかしそれら「曲線」や陰影は無意味で混乱していた。それは丁度無知な黒人が、英語で書かれた手紙の筆跡を再現しようとするのが、我々理解力のある目に恐らく映じるであろうところのものと同じであった。だが全てが紛い物と云う訳でもなかった。

 吾輩は神々をまじまじと見たことについて触れておいた。それはそうしている間に、フアル・ミゲットが置かれている状況の特定の局面についてそれをどう扱えばいいのかと云う、最初のはっきりしたヒラメキが得られたからである。

 吾輩が店の中に入って行くと、フアル・ミゲットが吾輩の対応に進み出て来た。彼は気難しく、濁った黄色い顔をして、忍耐の限界に来ている様であった。

 「おたくのウィンドウにある神像を幾つか見せて貰いたいんだがね」と吾輩はやや高い音程の声で言った。「こうしたものには常日頃興味を抱いているんだ」

 混血児は一言も発しずにウィンドウの方へ行き、ガラスの仕切りを引いて開けた。とにかく彼は一時的にせよセールスマンとしての金に対するあらゆる執着を失ってしまって、今のところは生きた自動人形以上のものではないことが見て取れた。

 仕切りを引くと、彼は身振りで以て、神像を見て好きなのを選ぶようにと吾輩を手招いた。彼はまだボーッとして弱り切ってそれはもうガッチリと落ち込んでおり、如何なる種類の商売術も駆使することが出来ない様であった。

 吾輩は彼の招きに応じ、それらバーミンガムの職人芸を見乍ら、ひとつ目を、それから次の神像をと興味深げに手に取った。最後に吾輩は、最初に魅了された青銅の山羊の神像を持ち上げた。それは稀少なもので、それなりに値打ちがあるものに違いない。吾輩は顔を上げてフアル・ミゲットをちらりと見てみたが、彼は吾輩の方を見ようとさえしなかった。彼はその平べったい顔に怯えと半ば絶望の色とを浮かべて、聞き耳を立てている様であった。すると、彼はモゴモゴと何か言い訳をして、店を横切ってカウンターの後ろへ行ってしまった。慮るに、彼は木乃伊のケースの中の自分の息子が立てる音を聞いたか、或いは聞いたと想像したのであったのでだろう。

 彼が行ってしまっている間に、吾輩は山羊の神像の陰影だか「曲線」だかを検べてみた。それらは吾輩に断然口に出来ない様なことどもを幾つも語ってくれた。近代のバランスの取れた人物のより節度ある個性にとっては嫌悪感を催させるものではあったけれども、それらは極めて興味深かった。

 吾輩は像の台座周辺の「曲線」を検べ、小さくなってゆく二重の円の浮き彫りのある先細りの仕掛けの付いた、「開く」と云う古い秘密の印を発見したが、それを見てゆくとその先には隠れた留め金があった。


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