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 「もう大丈夫だ!」彼が跳ぶのを見て吾輩はもう一度叫んだ。「いいぞ、ジョンソン! よくやった!

 「ミゲット、こいつは千ドルじゃ安いと云うもんだよ」と吾輩は彼に言った。

 水辺の増えつつある密集した男共の一団から、発砲があった。それから何百と云うアメリカ市民達が、これ程までの火薬と騒音の原因を突き止めるべく、通りのあらゆる方向から走って来る音が聞こえた。

 白いヘルメットを被り、夏の制服を着て見栄えのする街の警察官(見掛けからするとどでかいアイルランド人)がしなやかに駆けて行った。彼が、自分の周りにいる、興味をそそられた害のない市民達の手や肩を(主に手だが)陽気に殴りまくっているのが見えた。彼等はしかし、自分達の関心が物事の自然な秩序であると見做している模様であった。

 それから更に埠頭の先からかなりの発砲があった。しかし吾輩には既にランチが湾の彼方を、埠頭から半マイルかそれ以上も遠くを走り去るのが見えていた。

 通りでは、馬に乗った警察官の一隊が角を曲がって轟音を立て乍ら押し寄せて来て、馬の蹄が蹴り立てる音がしていた。彼等の怒号が店の前を過ぎて行った———殆どがでかいアイルランド人で、嬉しそうに、愉しみを待ち受けるかの様にして銃を構えていた。

 「大した見物だな、フアル・ミゲット!」と吾輩は行った。「たったひとつの弁髪を巡ってにしてはね!」

 海岸通りの群集はいなくなっていった———文字通り消えていったのだ。斯くも無表情で陽気な騎馬警官共が有能であるからであろう。それにどのみち、笑って火を噴く弾丸と云うものは………丁度何と言うか、もっと真面目な野郎が抜かした冗談の様にうんざりさせられるものなのだ。

 吾輩はフアル・ミゲットをチラリと見て、彼は何を考えているのだろうと思った。恐らく殆どはこうした問題全ての原因となった、黄色い神像のことについて、そして吾輩の側にいる休眠中で元気のない「女性」についてだろう。

 「混乱している内に出発した方がいいな」と吾輩は付け加えた。「それでは行こうか、愛しい人よ」

 吾輩達は、愉快なことに誰にも見られずに店を出て、何事もない数分間の後、吾輩の船に到着した。



                                              
十一月一日

 我々は今夜出航する。そして吾輩は今朝フアル・ミゲットの店へ出掛けて行った。吾輩は、自分が美徳の報酬に値すると考えた。あの山羊の神像を真に切望したからである。しかしあの混血野郎の本質的な卑しさを考えると!

 彼は非常に不機嫌な様であった。しかし、吾輩は彼に憐れみを掛ける様な真似はしなかった。

 「こいつは幾らかね」と、吾輩は山羊の神様の素敵な青銅の肩をぴしゃりとやって訊ねた。

 「千ドルネ、センチョ兄弟」と彼は言った。

 「千セントだ」と吾輩は応じ、扉の方へ歩いて行った。

 「八百ドル、センチョ兄弟」と彼は宣った。「ワタシ、アナタがワタシにしてくれた善行の為に、アナタに多くの金失った。センチョ兄弟」


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