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十月三十一日
朝十時に、吾輩はひょろ長く見える「女性」と腕を組んで、フアル・ミゲットの店に入った。
フアル・ミゲットが前に進み出た。そして暫くその「女性」と吾輩はあれやこれやを眺めて、ひとつふたつ詰まらぬものを買った。混血児は極端に落ち込み、話すことさえままならぬ有様なのが見て取れた。彼は他のこと全てを除外して何かを考え込んでいる様であった。確かに彼は、考え込むに足る厄介事を、もう充分抱え込んでいる!
数分してから、吾輩はフアル・ミゲットに、通りを見渡してみろと合図した。それから彼に、あのでかい中国人が何をしているか見ろと言った。彼は大胆にも中の扉を開け、何かを取りに来たかの様に入って行った。戻って来ると彼は、ナイフを持ったあの男は床で寝ていると報告した。
「ぐずぐずしないで脱ぐんだ、ビリィ!」吾輩は連れて来た「女性」に言った。
直ぐ様帽子とヴェールとが脱げ落ち、それに大きめのドレスが続いた。そこに現れたのは、典型的な
一見
(
、、
)
若い中国人であったが、細身で甚だしく筋肉質であった。
「あそこだ、カウンターの後ろ!」と吾輩は言った。「見られる前にきびきびやれ。銃を使える様にしておけ。だが後生だから、絶体絶命になるまではそいつを使ってくれるな」
吾輩は自分のポケットに重いコルトを一対持っていた。この後の数分間、吾輩自身もまた大変な危険を背負うことになるからである。
「さあ、ミゲット」と吾輩は言った。「全員生皮剥がされずにこいつを遣り遂げたいなら、行動開始だ。君の息子を出せ!」
吾輩は手にドレスを拾い上げて用意した。そしてフアル・ミゲットは、文字通り薬漬けでボーッとしている若者を、木乃伊の殻の中から出した。彼がしっかり自分の足で立てる様になる前に、吾輩はドレスを彼の頭の上まで引っ張っていた。それを締める間もなく、吾輩は帽子とヴェールとに飛びつき、彼の馬脚となる顔と頭とを隠した。一瞬にして、吾輩は彼に帽子を詰め込み、ヴェールを彼の顔の上と周りとに引っ張った。吾輩の指は飛ぶ様に動いた! 若しこの瞬間吾輩があのどでかい中国人に捕まったとしたら、吾輩は発砲せざるを得なくなるであろう。そうすると、時を措かずに五十人もの野獣共が店の中に入って来て、我等が偉大なる友人達を見分けることも出来なくなる。奴腹は、ナイフのお仕事とでも言うべきものに対して、尋常ならぬ
嗜好
(
、、
)
を持っているものだからである。
一分かそこらすると、吾輩は再びカウンターの外側にいて、女性に見える生き物と腕を組んでいた。ドレスとヴェールは全身を覆ってはいたが、正確に言うとすっかり全身をと云う訳ではなかった。しかしこうしたものは大抵のものを同じ様に見せてしまうものだ!
「用意はいいか、ビリィ?」吾輩はカウンターの後ろで屈んで構えているスポーツ走者にもの柔らかに呼び掛けた。
「ああ」と彼は言った。
「では外を見てみろ」と吾輩は彼に言った。「吾輩が今からあのでかい野獣を外に出す。あいつに姿を見せたら直ぐに逃げ出すんだ。でないとこの場で殺人が起きることになる。いいか?」
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