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 「それにまた女性達の相手もしなきゃならん、ディック、自分より若い女性連中だ。彼女達は()、我々が理解している通りの意味で民主化されておる。彼女達には自分達のことが解ってはおらん。昔もこそこそした不義は相当あったし、もっとこそこそした姦通も行われておったが、そうしたものは世の中の表面すら掻き乱したりはしなかったもんだ。それは単に健全な淫行に過ぎなかったんだ。貞節は今日び流行らない。子供達は邪魔物だ。彼女達はほっつき歩くお愉しみとかをしたがり、或いはしたがるべきなんだと感じておるが、男性がそれに金を払わなきゃならん。彼女達は、殆どあからさまに自分を売る。 丸投げか小売りかはともかく。男達は心許なくなり、狼狽し、女達はそれに続く。ディック、きっと驚くぞ、遠回しに堕胎を仄めかす昨今の連中を見たらばな」

 彼は躊躇い、口を開いた。「お前は (、、、 )女性達をどうする積もりなんだ、ディック? こうしたこと全体については一体どうする積もりなんだ?」

 「僕は女性が好きだ」とディックは暫く省察の為に中断した後で言った。「とっても好きですよ」

 「それで彼女達はお前のことも好くと云う寸法なんだね?」と彼の父親は言った。

 「世の中は変わったんですよ、お父さん」

 「お互い愉しむ、か? 全てが気楽になった訳だ。私の時代にあった抑圧なぞ影も形も無い。多分悪くなったんじゃなくて、良くなったんだろうな。しかし全てがびっくりする程変わってしまった………。お前は、こうしたことに流されちゃおらんだろうな?」

 「そう思いますけどね。うん。今までのところ、僕の仕事には何の害も無いし、これからもそうだと思いますよ」

 「性は」と父親は考え込んだ。「昔は、某かの生物学的な意義を持っていたもんだ。それに社会的な側面。それに一種の連れ添うと云う概念。それも (、、、 )皆変わってしまったんだろうか?」

 「或る意味では変わりましたね、うん」

 「それでお前さんの若い女性達は終いには何になるんだ? 可成りくたびれたちっぽけなアバズレか? 或る者はどうせそうなる。大して被害を受けていない様な者も中にはおる。だが、だらしない者と云うのは殆どがだらしない儘でいるもんだ。そして年を取っただらしない女なんてものはとんでもなく胸くその悪い代物だ………。それにお前自身はどうだ、ディック、お前が (、、、 )年を取ったら?」

 「多分結婚するでしょうね。イヤな奴になるずうっと前に。お父さん (、、、、 )には何人か孫が出来て然るべきですよ。こいつは大いなる情熱なんてのにはならないでしょう。こいつは多分欠点なんでしょうね、お父さん? 実のところ、僕は色恋のロマンスなんて好きじゃあないんです。僕はユーモアが好きだ………。

 「その連れ添う (、、、、 )って件についても、それ程はっきりしている訳じゃあないんです。女性達の心は我々の心とは一緒に動いてくれそうには思えない。我々と歩調を合わせようとはしない。僕はそれを見て来たんです。多分、はっきりとした答えを出す前に、僕は何かもっとじっくり考える時間を持つべきなんでしょうね。アダムがほじくり返してイヴが補佐していた時、そこには或る種の協働関係があった。だけど今は———男と女が、二人して狩りをしたりしますか? 出来 (、、 )ますか? 新しい環境の下で。僕の仕事………僕は、僕の仕事について知り過ぎた細君なんてのを持ちたくはないですね。僕が暇になった時、避けては通れない (、、、、 )、腹立たしくて気に入らない心配事について考え事をして、没頭している時、何か失くしてしまったものを探している時。朝食の席で素敵に知的な質問が飛び立つことの恐ろしさを考えてみて下さいよ!『ねえあなた、話してくれませんこと………』。だけどそれでもやっぱり、僕は何も知らない細君を持つなんてのは御免被りたいですね」


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