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 「全員ですか?」  「殆どだ。そうでない者もいる。相当違う者がね。彼等は変わってる。彼等の想像力は変わってる。それに彼等は進む (、、 )んだよ。非常に広い所まで。あんまり広いもんだから、私は時折、違う種類の生き物を扱っているんじゃないかと思う程なんだよ。しかし全体的には、破局を回避する為に必要な意志と理解との再生なんてものは見えて来たりはしとらんね、一向に」

 彼はそこで止めたが、息子の方は静かに注意を傾けて凝っとしていた。

 「恐らく、丸切り希望が無い訳じゃない。恐らく人類の中には、異なる種族が存在する———皆ごちゃ混ぜになってるんだ。その考えは広まりつつあると思う、ディック。お前も聞いたことがあるだろう。恐らく、人類に於ける本当の違いと云うものは、彼等の頭脳のねじれの中にあるんだ。愚かしい大多数の者の中に散らばってはいるが、恐らく異なる資質を備えた人々がいるんだろう (、、、 )———異なる展望を見る (ヴィジョン )力を備えた人々が」

 「一種の、匿名の、気付かれざる貴族達ですか?」

 「その通り」

 「ではお父さんはもう民主制を信じてはいないんですね?」

 「信じたことなんて一度も無い。奴等を見てみろ! お前は信じるのか?」

 「信じたいですね」

 「だがお前は信じてはおらん」

 「だけど貴方の四十年の診療生活の間」と若い方の男が言った。「一体、全体的に、一定の量の一般的な精神的進歩ってものは無かったんですか? 更なる教育、更なる本、更なる情報は? 十分じゃないことは僕も認めますがね、幾らかはあったでしょう。若し我々がこうしたことのテンポを加速させることが出来さえしたら?………」

 老人は不信心な微笑を浮かべて頭を振った。

 「お前達が知的な連中をそっくり手に入れることは出来ん。お前達は溝を広げるだけだろう。生まれついての馬鹿は、死ぬまでバカなんだよ。多分、正しいタイプの者は比例してもっと多くはなるだろう。抬頭する為の機会を掴めばね。しかし群集と云うものは群集であり続けるだろうし、暴徒の様に振る舞うことだろう………。これが私の立場だよ、ディック」

 「それが正しいとは思いたくありませんね。何故だか———僕の(とし )の所為かな———高貴な自己についての暗黙の留保みたいなのもある。分かるでしょう、パパ………」

 彼は顰め面をした。

 「お前は好かん様だが、私だって好かんよ。私も齢の所為かね、ディック。そうした違いが存在するってことを、自分自身にさえ認めると、何だか———不愉快になるんだよ。しかし若し万人が平等ではないと云うのが真実であるならば、より劣った者を平等な者として扱うのは果たして公正 (、、 )なことなんだろうか? ゴルフでだって、お前はハンディキャップをやるだろう。私だって、自分の患者達に、連中の治療に対して投票してくれるよう頼んで、それでその結果について連中を責める様な真似はせんよ」

 それから思い掛けず、彼の息子にはとても特徴的に見えた仕方で、彼は言った。「こいつは学問的になって来たな。ディック………」

 ディックは気にしていない風だった。彼は単純に、この明らかに長い思索の結果である談話に興味を抱いていた。彼は父親が再開してくれるのを待った。


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