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神は種を蒔かれ、而して花が咲いた。
聖なる哉神よ、世界は彼の花である。



 畑を持つ一人の貧しい男が居て、そこで一日中働いた。彼には娘が居た。一人娘で、彼は娘を愛していた。仕事の後、日暮れの中で、彼は畑を見た。見る彼の上に黄昏が落ち掛かり、星々が顔を出した。神の花が彼の頭上で花開いたが、彼はそれを知らなかった。だが彼は家から娘を呼んで、その頭の上に手を載せた。そしてこう言った。「畑の出来は上々だ。靴とストッキングを買ってやろう」そこで娘は暗がりの中ではしゃぎ、彼は彼女の中に神を見た。

 夜明けに軍隊が東から遣って来て、畑を荒廃せしめた。彼等は家や家財に火を放ち、娘に汚らわしい仕打ちをした。怒りが、敵に対して男を強くし、彼はその内の三人を殺した。しかし残りの者が頭を打ち割って、彼を投げ棄てた。ことが済むと、彼等は去った。娘は死んだ。

 男は一日中、何も知らずに横たわっていた。しかし夜には目を上に向けた。空が見えた。ひとつの輝く星が、安らぎで彼を慰めた。だから彼は痛みのことは気にせずに、神のことだけを考えた。だが少し横を向いた時に、娘が見えて、彼は思い出した。彼は娘の方に這って行って、その髪に口付けた。そして誓いを立てた。

 そこで傷が癒えると、彼は急いで兵士になった。彼は仲間と共に大戦へ赴いたが、心は娘のことで一杯だった。彼は毎日喜んで敵を殺し、彼等の血の海に溺れた。

 或る時、彼は一人の死に掛けた男に遭遇した。敵であった。その敵は言った。「お願いです、私が死ぬまで傍に居て下さい」彼は難色を示しつつも、傍に留まるのを仄めかす様にゆっくりと近付いて行った。ところが敵は言った。「お願いです、跪いて、私の手を取って下さい」彼は跪き、敵の手を取って、その死を待った。その敵は言った。「私には息子が二人居ります。愛してくれる妻も居ります」彼等は沈黙した。そしてその敵は死んだ。

 男は彼を烏や蟻に任せて去ったが、嘆き乍ら去ったのだった。そして気力が萎えて、彼は横になった。蟻の大群が地面の上で互いに殺し合っているのが見えたが、彼の傍には、数え切れぬ葉を茂らせた大きな年老いた木が立っていた。風があらゆる葉をそよがせ、ひとつの大きな音を立てた。その音は男に安らぎを与え、彼は眠りに落ちた。

 彼は夜に目が覚めたが、数え切れぬ星々が輝いていた。葉のざわめきはまるであらゆる星々が歌っている様を思わせた。そして大地もまた歌っていた。至る所に生命が満ちていた。軍隊もまた歌っていた。死者達もまた歌っていた。彼の娘がそれら全てを導いているのが聞こえた。だから男は夜明けまで、太陽が昇るまで耳を澄ませていた。そして彼は太陽を前にして立ち上がり、誓いを立てた。

 彼は同志達の所へ行ってこう言った。「兄弟達よ、殺すのは恥ずべきことだ。死ぬ方が増しだ。我等の兄弟達の所へ赴いて平和を打ち立てるのを許してくれ」だが彼等は言った。「お前が百万人を説得するのか? いいや、我々は土地を守らねばならないのだ」だが彼等が攻撃の命令を受けても、男はそうしようとしなかった。士官が彼を見て急かした。だが男は言った。「兄弟よ、殺すのは恥ずべきことだ。死ぬ方が増しだ」士官は嘆いて、彼を殺した。



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