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神は種を蒔かれた。そは過つことあらじ。
秋に葉が萎れることがあるとも。



 地上は戦場であり、街々は瓦礫の山と化した。あらゆる男達が戦っていた。働く者は誰も居なかった。軍隊は飢え、疲れ切っていたが、尚も戦っていた。女子供が戸外で埋められもせぬ儘死んで横たわっていたが、それでも赤子は更に生まれていた。悪疫が人々を蝕み、大地は汚れ切っていた。

 戦争は更に激しくなったが、どちらの側も勝てそうになかった。人々は反抗し始め、混乱が拡大した。しかしあらゆる土地に平和の使徒達が居て、戦争に抗って立ち働いていた。平和の女使徒達は、人殺しにする為に子供を生もうとはしなかった。兵士達は戦いの合間に敵達と混じり合い、彼等と友人になり始めた。だが尚も命令があれば、彼等は殺す為に戻って行った。誰もがこう自問した。「戦争は地獄だ。そこに善など無い」しかし隣人に対しては、彼はこう言った。「我々は大義の為に苦しんでいるのだ」そして戦争が全てのものを食らい尽くし、あらゆる悪が成長した。

 戦場に一人の女性が居て、負傷者の世話をしていた。太陽が彼等に照り付けたが、水は無かった。彼等は喚き始めたが、どう仕様も無かった。その女性は彼等の世話で忙しかったが、暫く凝っと考え込み、男達が戦争の為にこれだけ耐えたのに、平和の為には何もしなかったことを不思議に思った。

 その時、大勢の男達が敵に追われて向こうから走って来た。敵は走る彼等を殺戮していた。その心優しい女性は彼等の前に立ちはだかったが、制することは出来なかった。彼等は皆怒り狂う彼女の脇を通り過ぎ、彼女は新しく脱落した者と共に取り残された。けれども暫くして、敵は捕虜を連れて戻って来た。彼等は彼女を捕まえておくことも出来たのだが、聖なる(いか )りが彼女に取り憑いていたので、敢えてそうしようとはしなかったのである。彼女は叫んだ。「友よ、貴方達は皆戦争を憎んでいる。何故戦わねばならないのですか? 貴方達は狂人ですか、愛して尚殺すことの出来る者なのですか? それとも貴方達は臆病者ですか、自分達の武器を投げ捨てる勇気の無い者なのですか? 全世界が平和を欲しています、そして全世界が怖れています。戦場を見なさい、自分達が生み出したものを! 満足ですか? いいえ貴方達は、貴方達は憎んでいます、貴方達は狼ではなくして人だからです。貴方達には貴方達を信頼している妻も母親も、恋人も子供も居ます。貴方達は、どうして六月の青空の下で殺したり出来るのですか? おお、私達は皆神を見失ってしまったのです、だからこそ私達に歓びは無いのです。ですが神は愛する者全ての者の裡に居られます。彼は万人の心の裡に居られるのです。武器を置きなさい、投げ棄てるのです。殺すよりも死ぬ方が増しです。戦争をして生きるよりも、平和の使徒として死ぬ増しです。貴方達がしなくとも、他の者達がするでしょう。そして更に他の者がそれに続くでしょう。そうすれば戦争は終わります」

 彼女の話を聴く為に、群衆が周りに集まった。そして各人が、彼女が真実を話していることを知っていた。皆の心の裡に、彼女の声に答える声が有って、各々の裡で神が話していたからである。群衆の中からざわめきが起こり、皆は皆が賛同したことを知った。そして彼等は武器を投げ棄て始め、突然、皆が喜びの叫び声を上げた。それからその女性は皆に、平和を訴える為に国中に散らばるよう促した。彼女はこうも言った。「殆どが殺されるでしょう、ですがこれは平和の為なのです」

 突然、彼等の敵が攻撃して来て、彼等は制圧されるに任せた。殆どが直ちに殺されたが、彼等は平和を讃え乍ら死んで行った。敵は仰天して、殺すことを躊躇った。それから直ぐに彼等もまた武器を投げ棄て、平和の使徒になった。

 そうした混合した全軍勢が、戦争を止めるよう人々を説得するべく国外へ広がって行った。多くの者が殉教したが、彼等は歓びの裡に死んで行った。そして人々が耳を傾ける用意が整い始め、斯くして言葉は広がって行った。そして遂に、或る決められた日にあらゆる戦争を停止し、あらゆる武器を集めて破壊することが合意された。そしてその日、それは実行された。各人が誓いを立て、敵だった者と手を取り合った。あらゆる軍隊が故郷へと行軍し、彼等の故郷は歓びで満たされた。

 それから人々は破壊されたものを再び建設し始め、平和の大事業に乗り出した。至る所に悲しみが、戦争の齎した悲惨さが残っていたが、そこには希望があった。人々は言い争い、手の届く所のものを掴もうとし始めたが、新しい精神もまた夜明けを迎えつつあった。人々の魂は、新しい時代の始まりの為に鍛えられていた。それは神を知る時代、そして喜びの時代となる筈であった。

 あの女性は自分の村に戻って、自分の家を造った。彼女は市場に出す青物を育て、家禽を飼った。彼女は毎週バスケットを一杯にして市場へ行った。隣人の子供達は彼女を愛し、愛称を与えた。そして屢々夜に、彼女は星々を見る為に庭に出て、死んだ友達のことについて彼等に尋ねた。彼女は星々のことをよく知っていたので、空想に従って彼等に名前を付けた。彼女は、あらゆる星々の歌である音楽を耳にする様になった。そして彼女は彼女の友達のことを知った。彼は神であった。そして歓びが世界に戻って来た時、彼女は死んだ。



神は種を蒔かれ、而して花が咲いた。
聖なる哉神よ、世界は彼の花である。


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