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神は種を蒔かれ、花が咲くのは確かである。
だが芽が綻びるまで、人は疑わねばならぬ。



 知性ある若者が居て、熟練した製鉄工だった。彼は雇い主達と口論になり、その為に脅された。しかし彼は同僚達に、自分を支持するよう促してこう言った。「正義はこちらにある」彼等は仕事の手を止めて彼を支持した。一月後、彼等は彼のところへ遣って来て言った。「我々は疲れた」だが彼は答えた。「大義は正しい」そこで彼等は去った。更に一月後、彼等は再び来て言った。「我々の妻や子達が飢えている」だが彼は言った。「大義は正しい」そこで彼等は去った。だが更に一月後、彼等は来て言った。「我々は打ち拉がれた」彼は言った。「諸君が死のうとも、大義は正しい」だが彼等は彼を見捨て、仕事に戻った。

 若者は仕事と真実を求めて、街から街へと彷徨い歩いた。或る夜明け前、彼は一冊の本に読み耽っていた。だが彼はその英知に疲れ果て、窓を開いた。そして屋根や煙突の間から上を見ると、星がひとつ見えた。彼は考えた。「星々は目的も無くあちこちへ投げ出されている。人もあちこちへ投げ出されている。ならば神は居ないのだ」そしてこうも考えた。「星々はぶつかることは無いが、人はぶつかる。天と同じく地上にも秩序を齎そう」

 けれども二つの大きな軍隊が東と西から出て来て、若者は兵士にする為に連れて行かれた。だが連れて行かれる間、彼は熟考して言った。「万人はひとつである。戦争は愚行である。僕はしない」彼等は怒ったが、彼は納得しなかった。そこで彼は鉱山に連れて行かれて、そこでならと仕事を強いられた。彼は地の下で一日中働き、闇が彼の心に入って来た。彼は言った。「人々が反抗しないようにと、富める者が戦争を企むのだ。滅びよ富める者よ、泥棒にして殺人者よ」

 若者は鉱山から脱走し、平和を打ち立てている人々の間に入って行った。だが敵がスパイとして彼を捕え、士官の前に連れて行った。若者は人々の名に於て士官を罵った。だがその士官は彼を解放させて言った。「兄弟よ、殺すのは恥ずべきことなのだから、死ぬ方が遙かに増しだ」それからその士官は自ら命を絶ち、若者は喜んだ。だが兵士達は自分達の士官の為に子供の様に泣いた。彼等は彼を愛していたのだった。若者は恥じた。

 彼は両軍の間を逃れて、自分自身の国の国境に逃げ込んだ。彼はあの士官の所為で、また神の所為で困惑していた。さて彼は路傍に座って考え、青空の中に神を探し求めた。そこへ人やその家財を積んだ沢山の荷馬車が来たが、最後の荷馬車は馬が年老いていた為、痛ましい程に遅れていた。その荷馬車には老人と少女が乗っていて、少女が手綱を握っていた。若者は最後の荷馬車の所へ行って尋ねた。「君等は何者だ?」少女は彼を見たが、彼には彼女が神聖なものに見えた。だが彼女は彼から目を背けて言った。「敵が来たのです」彼の心臓は彼等の為に早鐘の様に打った。そこで彼は叫んだ。「敵よ呪われてあれ」だが娘は言った。「そう呪う貴方は何者です?」彼は答えた。「僕は平和の使徒です」彼女は彼の目を覗き込んで言った。「そうなの?」

 若者は老人と少女の為に嘆き乍らも、困惑して去った。一日中、そして夜も、彼は彼女のことを考えた。そして彼は自分が星々の間に立ち、それらに針路を命じている夢を見たが、そこへあの士官が遣って来て、ひとつの星を誤った道へ導いてしまったことを悔いていると言った。そこで彼は士官を罵り、彼を地獄へ送った。だがあの娘が彼の前に立ちはだかり、彼を咎めて言った。「あの方の血が貴方にかかっています、私の父の血も貴方にかかっています。貴方は自分の独善によってあの人達を殺したのです。汝小さき魂よ、神を弄ぶ者よ」

 朝、若者は人々の為に戦う為に兵士になった。彼は誇りを脱ぎ捨て、この上も無く謙虚になった。そして冬が来ると彼は戦いに赴き、喜んで戦った。



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