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 彼はまだ狂った様な高揚状態にあって、笑い出した。それから彼女を詰った。「とんだ現実主義者だな! びくついてるんだろう。いいとも、僕が本当はどんな奴か君にも分かったろう。僕に何が出来るかもね。分かるかい! 君は僕のものだ。僕は君が何処に居ようと、何時だって殺せるんだ。僕は君に好きなことをする。僕を止める気なら、駒鳥と――バスに乗った男の後を追うことになるぞ」彼女の手が涙の跡が残る顔から滑り落ちた。彼女は恐怖と——それから優しさのごた混ぜになった目で、彼を凝っと見た。彼女は静かに言った。「完全に狂ってるわ、可哀想に。貴方はとても優しい人に見えたのに 。ねぇ貴方、私に何がしてあげられるの?」

 長い沈黙があった。それから唐突に、子供の様に泣きじゃくり乍ら、ジムは地面に倒れ伏した。 彼女は当惑して彼の傍に立ち尽くした。

 彼女がどうしたものかと思いあぐね、手遅れになる前にあの魔法を破らなかったことで自分を責めている間、彼は自己嫌悪に苦しんでいた。その後彼は、それ以上の害を為すことが無いよう、自らの身に術を使い始めた。それは彼が予想していたよりも難しかった。意識を失い始めた途端、彼はその操作の制御を失ってしまったのだ。だが彼は死に物狂いに念じ続けた。ヘレンが彼が静かになったのに気が付いて側に跪いてみると、彼は死んでいた。












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