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 コテージの庭での会話の後、彼はこれまで以上に熱心に彼の企てに集中した。彼はヘレンに感銘を与えるために、より一層壮麗な力を手に入れなければならないのだった。彼は、何れにせよ見込みがあるのは、無生物や生物に於ける小さな物理的乃至化学的過程に干渉する腕前を上達させることであると心に決めていた。彼は擦ったマッチが点火するのを妨げる仕方を学んだ。彼は念動力の力を適用して、原子の中に閉じ込められたエネルギーを解放することによって、原子研究をそっくり迂回させようと試みた。しかしこの刺激的な様な企てに於て、彼は全く成功を収めることが出来なかった。それは恐らくは訓練を積んでいたにも関わらず、彼が十分な物理学の理論的知識も、実験のお膳立てに必要な適切な装置を利用する手段も持ち合わせてはいなかったからだった。生物学的な方面に於ては、彼は駒鳥に用いたのと同じ過程を用いて、小さな犬を殺すことに成功した。彼には、練習すれば直ぐにでも人を殺すことが出来る様になると云う自信があった。

 ひとつの憂慮すべき体験があった。 彼は自分のオートバイのエンジンの点火を止めてみようと決心した。彼はスタンドの上でバイクを始動させ、点火が失敗するようにと「念じ」始めた。彼は点火プラグの先端と跳び散るスパークとに注意を集中し、先端同士の間の空間が非浸透に、絶縁体になれと「念じた」。この実験は勿論、物理的過程に対する、神経繊維を凍らせたりマッチの点火を邪魔したりと云ったことよりも遥かに大きな干渉を含意していた。この課題と格闘中、滝の様に汗が流れ落ちた。到頭エンジンが不点火を始めた。だが何か奇妙なことが彼の身に起こった。彼は一瞬酷い目眩と吐き気を味わい、そして意識を失った。回復した時には、エンジンは再び正常に稼働していた。

 この事故はひとつの挑戦だった。彼は今まで、彼の実験の単なる理論的な側面について、自分自身の為に真剣に関心を抱いたことは無かったのだが、しかし今や彼にはそうする必然性があった。彼が「念じる行為」によって物理的過程に干渉した際に、正確に何が起こっていたのかを自問してみる必要があったからだ。はっきりと説明出来るのは、何等かの仕方で先端部間の隙間を渡ったに違いない物理的なエネルギーが、彼自身の肉体に向けられていたと云うことだった。事実彼は、先端部に触れていたら受けたであろう電気的ショックを被ったのだ。彼の症状は感電した時のものとは違っていた為、本当の説明がこれ程シンプルなものであったかどうかは疑わしい。大量の物理的エネルギーを抑制することで、彼の中で何等かの深刻な精神的攪乱が引き起こされた、さもなくば、もっと大雑把に言うならば、物理的エネルギーが何等かの仕方で彼の中の精神的エネルギーに転化した、と言った方が、より真実には近いかも知れなかった。この理論は、彼が意識を取り戻した時、まるで何か刺激的な薬物を摂取したかの様に、非常に興奮し精神的に活発な状態にあったと云う事実によって裏付けられた。

   この件の真相がどうあれ、彼は我が身を守る為によりシンプルな理論を採用して、侵入して来るエネルギーを逸らすことに着手した。不安に満ちた多くの実験の後、彼は点火プラグと何か他の生体との双方に注意を集中し、それからその生体に「電気を逸らし」、そちらに被害を被らせることで、それが可能となることを発見した。一羽の雀で事足りた。それはショックで死んだが、彼自身はエンジンを停止させることが出来る位長い間意識を保った儘でいられた。別の機会に、彼は隣人の犬を「避雷針」として利用した。その動物は倒れたものの、直ぐに意識を回復し、陽気に吠え乍ら庭を駆け摺り回った。

 彼の次の実験は、より刺激的で、そして遥かに不埒なものだった。彼は田舎に行って、或る小山の上の、可成り遠くまで道路を見渡せる位置に陣取った。その内に車が視界に入って来た。彼は点火プラグに注意を集中し、電気エネルギーがドライバーの中に逃げるように「念じた」。車は減速し、道の両側の間をよろめき、反対側へ渡った所の行き止まりまで行った。ドライバーがハンドルの上に崩れ落ちるのが見えた。その車には、他に誰も乗っていなかった。大いにわくわくし乍ら、ジムは何が起こるか見ようと待ち構えた。やがて別の車が逆の方向から来て、荒々しく悪態を吐き、ブレーキ音を軋ませ乍ら車を止めた。ドライバーが出て来て、打ち捨てられた車の方へ行き、ドアを開けて、乗員が意識を失っているのに直面した。後から来た方が震え上がってどうしたらよいものかと迷っている間に、もう片方が意識を取り戻した。不安気な会話の後、最終的に双方の車は互い違いの方向へと走り去った。


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