前の頁へ
1 2 3 4 5 6

次の頁へ



 二人はコテージの庭の茶卓で互いに向かい合った。ヘレンはジムの顔を冷たく見定め乍ら、後ろに凭れ掛かっていた。それは奇妙に子供っぽい、殆ど胎児の様な顔で、大きな眉に獅子鼻、唇は突き出していた。子供っぽい――確かにそうだった。だが丸く暗い瞳の中には、狂気の閃きがあった。彼女は自分が或る意味で、この奇妙な若い男に、ひとつには恐らくそのとても子供っぽいところやぎこちなく初心 (うぶ )な求愛に、しかしひとつにはその不吉な閃きによって、惹き付けられていることを認めなければならなかった。

 ジムは熱心に話し込んで身を乗り出していた。彼は長いこと話し続けていたが、彼女はもう耳を傾けてはいなかった。彼女は、自分は彼に惹き付けられはするけども、彼のことは嫌いなのだと決め付けていた。彼女は何故彼とまた一緒に出掛けたりしたのか? 彼はひ弱でで自己中心的だった。なのに彼女は来たのだ。  彼が何か言っていたのが彼女の注意を捕えた。彼は、彼女が聴いていなかったことにむっとしている様に見えた。彼は何かのことですっかりやきもきしていた。彼がこう言うのが聞こえた。「君が僕を軽蔑しているのは知っているよ、だけどそれは大間違いだ。実は僕には力があるんだ。君に秘密を打ち明ける積もりは無かったんだけど、こうなれば仕方無い。僕は、精神が物質に及ぼす力について沢山のことを発見したんだ。僕は念じるだけで、離れた場所から物質をコントロール出来る。僕は何と云うか、現代の魔法使いになる積もりだよ。僕は念じるだけで殺すことさえ出来たんだ」

 医学生だったヘレンはその抜かりの無い唯物論を誇っていた。彼女は鼻であしらう様に笑った。

 怒りで顔を紅潮させて、彼は言った。「いいだろう! なら見せてやるよ」

 茂みの上で駒鳥が啼いていた。若者の視線は少女の顔を去り、その駒鳥の上に一心に据えられた。「あの鳥を見て」と彼は言った。それは殆ど囁き声だった。間も無く鳥は啼くのを止め、頭を体の中へ丸めて暫く惨めな様子を見せた後、翼も開かずに木から落下した。それは足を空中に突き出した儘、草の上に横たわった。死んでいた。

 ジムはその犠牲者を見詰め乍ら、抑えられていた勝利の喚声を解き放った。そしてヘレンに目を向けた。ハンカチでその血色の悪い顔を拭き乍ら、彼は言った。「今回は上手く行った。鳥で試したことは無かったんだ。蠅とか甲虫とか蛙とかだけでね」

 少女は静かに、びっくりしている様には見えないよう気を揉み乍ら彼を見詰めた。彼は自分の秘密を彼女に話し始めた。彼女はもう退屈してはいなかった。

 彼は二、三年前に「こうした超常的なこと全般」に関心を持ち始めのだと彼女に話した。彼は降霊会に出掛け、心霊研究の本を読んだ。若し自分自身がおかしな力を持っているのではないか疑っていなかったとしたら、彼は手を出したりはしなかったろう。彼はお化けや思考感応や何かに真剣に関心を向けたたことは無かったのだ。彼を魅了したのは、精神が物質に直接に作用することが出来るのではないかと云う可能性だった。「念動力」とこの力は呼ばれていたが、分かっていることは殆ど無かった。しかし彼は理論的なパズルを気にしたりはしなかった。彼が望んだのは力だった。アメリカで骰子を使って行われた奇妙な実験について、彼はヘレンに話した。繰り返し何度も二つの骰子を振って、六の目が出ろと念じる。大抵はそうはならない。しかし非常に沢山の実験を繰り返して結果を総計すると、純然たる偶然に因った場合よりもよりも多く六が出ていることが判明する。それは実にまるで、精神が本当に僅か乍ら何等かの作用を及ぼしているかの様に見えるではないか。これは凄まじい可能性を開いたのだ。

 彼は、研究者達の発見や、だがまた彼自身のアイディアをも導きとして、自ら小さな実験を行い始めた。力は桁外れに僅少であるので、その規模を予想して、最小の作用で検出可能な結果が得られる状況でテストを行わなければならなかった。

 彼は骰子では余り成功を収めることが出来なかったが、それは(自分で説明した様に)自分が正確に何をすべきか、まるで知らなかったからだった。彼にしてみれば、骰子の目は出るのが早過ぎた。それ故に彼は、アメリカ人達が報報告した様な僅かな効果をしか得ることが出来なかった。だから彼はもっと増しな突破口となるべき新しい芸当を考え出さなければならなかった。科学的な訓練を受けていたので、彼は化学的な反応と単純な物理的過程に干渉してみることに決めた。彼は実に多くの実験をし、沢山のことを学んだ。彼は水の染みがナイフを錆びさせるのを防いだ。彼は塩の結晶が水に溶けるのを止めた。彼は水の滴の中で微小な氷の結晶を形成し、そして全ての熱を「念じ去る」だけで、事実全ての分子運動を停止させることで、最終的に滴の全体を凍らせた。


前の頁へ
1 2 3 4 5 6

次の頁へ

inserted by FC2 system