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 外側から見れば、それは地味で新しい煉瓦造りのビルだった。街のことを考えれば、やや小さめだったろう。扉に貼り付けられたきちんとした真鍮の表札にはこうあった。「医学博士マーカス・エドワーズ」。しかしこの医師に予約を入れようと骨折った人々は、一様に治療の仕方の型破りなことに驚き、それはあっと云う間に、正気ではないとの評判を彼に負わせることとなった。彼が行った幾つかの発見は、それに先立つ四世紀間に於て卓越していると云う事実にも関わらず、彼は医師会から絶縁された。彼は或る異端的な団体によって、曖昧な心の病気や過程についての学問に於ける、独自の実験家として知られる様になったが、それを彼は奇妙にも、古代のルーン文字や、野蛮人の魔法実験に基づいて行っているのだった。

 若し中に入ってみたとしたら、直ぐ様、部屋は広いのだが、不必要な装飾や家具を欠いていると云うことに気が付くだろう。きちんと磨かれたガラスケースが白い壁に沿って置かれており、間には本箱が不調和に挟まっていた。書物の装丁は古いものだった———黎明期の図書館以外でお目に掛かれるものとしては異常に古いものだ。それにラテン語の書名は、私立の施療院にしては普通ではなかった。医学的な書物はなく、その代わりに、非常に異国風で幻想的な、魔女学や交霊術を扱ったものが置いてあり、催眠術やそれに関連した書物も点在していた。この一見雑多な一区画は、注意深く整頓されラベルを貼られており、その全てに、頻繁に参照された跡が明瞭に見て取れた。

 ケースには同様に、外科的な道具以外のものが充満していた。正確にはそうしたものもあったのだが、しかしそれらに混じって、全く場違いな、邪悪な霊を追い払う為の幾つかの野蛮な装置や、或いは信じられない程古い時代の奇怪な文様のある粘土の円筒も見て取ることが出来るだろう。

 しかし、注目がいくのは、中央の物体に対してである———手術室で使うものの様には見えない、平らなテーブルだ。その上には一人の男の横たわる姿があった———若きエドウィン・コズウェル、同じ様に、称讃に値する業績により独立した資力を持った学徒である。彼が以前エドワーズと出会ってから、両者は頻繁に互いの足跡を交わし合う様になった。自分達の研究が不必要にも重複していることが分かってからは、彼等は力を合わせる様になった。

 テーブルの側には、背の高い、鬚を生やした男がいた———エドワーズだ———彼は燃え盛る火鉢の中にくべるべく、奇妙な調合物を作っているところだった。

 全てが静かだった。明かりが、コズウェルの頭に被せられた奇妙なヘルメットの上に煌めいた。コズウェルは、恐らくは実験のことを———彼等の研究のクライマックスのことを考え乍ら、ぴくりとも動かずに横たわっていた。

 突然、準備の整ったエドワーズが口を開いた。彼の声は嗄れていた。

 「すっかり準備は出来たかね」

 手術台の上の男が頷いた。「はい」

 「では目を閉じて、リラックスして」

 彼はその通りにした。火鉢から煙が、緩やかに大気の中に立ち昇って行った。

 「心を空白にして。何も考えないで。君は眠る………眠る………眠る………」

 コズウェルはやる気だったにも関わらず、彼の心は抵抗した。彼の思考はドクターの思考に対して踏み止まり、抗議し、格闘した。エドワーズから汗が噴き出し、彼は疲れた様に額に手をやった。それから彼は前に寄り掛かり、精神感応の努力に全力を傾注した。


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