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 「過去を見ることは出来るかね?」

 「はい、はっきりと」

 「そこには何がある?」

 「気味悪く輝く、どぎつい炎の太陽———地球が吐き出された巨大な太陽です」

 「その前は?」

 「虚無」

 「我々の時代にもう少し近く」

 「磨り減った石で舗装された通りを歩いている様です。私は東洋の衣装を着ている………。

 「場面が変わる………信じられない程美しい密林にいる………私の形はまだ人間ではない………。

 「ネロ統治下のキリスト教徒の奴隷………。

 「古代ブリトンのドルイド神官。何かの儀式が行われている。それを口に出すべきではない。

 「更に場面が変わる。前よりも速くなった。

 「侘しい個室にいる修道僧………。

 「アフリカの野蛮人………。

 「封建時代の城の灰色の石の壁! (、、、、、、、、、、、、、、 )

 最後の言葉は強い緊張を以て発せられた。それから彼は静かになったが、その両手は足掻き回っていた。

 エドワーズの顔が苦悩に歪んだ。

 「早く! 話すんだ! 何が見えるんだ?」

 コズウェルは沈黙した。再度命令があった。

 呂律の回らない音が彼の口から飛び出した。それから明らかに努力して彼は話し始めたが、見知らぬ言語で数語もぐもぐと言っただけだった。再び彼は沈黙したが、彼の唇は動いていた。

 それから静かに、次の様な言葉が発せられた。

 「………濠。私の様な服装をした者が大勢いて、皆弓銃で武装している。何人かは鎧を着けている。我々は城壁の上にいて、塔から遠くの森が見える。頃は春で、枝の頂は風が吹いてでもいるかの様に揺れている。我々は不安げに攻撃を待ち構えている。今朝我々にその報を齎した男は下にいて、多分死んでいる。その方が良かったのだ。人間の敵との闘いは、我々が戦わねばならぬ怪異に比べれば、冗談の様なものだ。奴等は何と穢らわしい生き物なのか! 人間を模倣した海月の様なものだ———自然法則の甚だしい歪曲だ。奴等の触手はのたうち回る恐怖だ。我々は大勢いるが、私は恐ろしい………

 「太陽はまだ高い。戦いは夜が来る前に行われるとよいのだが。暗くなってから遭遇したのでは私の勇気も怯んでしまうだろう」

 ドクターが遮った。「年代は? 国は何処だ?」彼は熱心に訊ねた。

 「ずっと昔———或いは恐らく———いや、私には分からない。それは多分未来、人類の最終戦争 (アルマゲドン )だ。国はイルロエ。私は………」

 彼の顔が顰められ、彼の普段の声が、生命なき単調さを破って痛々しく発せられた。「起こしてくれ、エドワーズ! 後生だから起こしてくれ!」それからエドワーズが友人を起こそうと無駄に足掻いている間、鈍い発話が続いた。エドワーズは火鉢を覆い消し、乱暴に彼を揺さぶり、急いでヘルメットにある小さな目盛りを調整したが、しかしその死んだ様な声は冷酷に続けた。


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