コズウェルの躰から急に力が抜けた。少しの間、エドワーズは大変な精神的努力に若干ふらつき乍ら、彼の側に立っていた。やがて彼は言った。
「私の声が聞こえるかね?」
「はい、聞こえます」低い声で返事があった。
「君は起きているのか?」
短い躊躇いがあった。「いいえ」
大気は静かだったのだが、煙が幻想的な形に捩じれた。
「しかし意識はあるね?」
返事はなかった。彼は質問を繰り返した。
「貴方が命令する限りに於てのみ、私には意識があります」と云うのが答えだった。
エドワーズは微笑した。
「君はまだ眠っている。しかし君の自我はその肉体を離れる。君は私との意思の疎通を保ち続ける。分かったかね?」
「分かりました」
長いこと、テーブルの上の人影には目立った変化はなかった。エドワーズは屈み込み、満足して、微かな呼吸を観察した。心臓はゆっくり静かに鼓動していた。
コズウェルの魂がその棲処から離れている間、奇妙な被り物の輝きには目に見える変化が明らかとなった。最初は鈍く、濁っていたが、それは急速に輝き出し、遂には脈動する金色となった。
「君は君の肉体の外にいるのかね」
唇から聴き取れない呟きが洩れた。
「話すんだ!」ドクターの顔が強張った。
「はい!」
「今、君には意識があるね?」煙が重い眠気を催す雲となった。
「はい!」
「何処にいる?」
「灰色の渦巻く空虚に」
「そこは———どんな具合だね?」
「私は独り。巨大なザワザワ云う音が空間を満たしている………私の過去と未来とが全て見える。物事のあらゆる図式を成す過去を未来とを」
「その不合理な配列には何か———理由
があるのかね?」とドクターが興味深そうに訊ねた。
「はい、遠い未来に。朧げにですが、しかし放射が存在します」
「それを突破してみなさい」
「出来ません」
「何が邪魔をしているんだ?」
「分かりません。或る特定の点で止まってしまう様です———永劫の前方で」