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 少年の頃に彼が想像の裡に構築したものは余りにも生き生きとしていたので、彼は自分の創造したものが生きた現実であると信じる様になった。全ての者、全ての物に対して、彼は名前を見出した——真の名前を。彼の内部の何処かには広大な遊び場が延べ広がり、それに比べれば彼の父親の地所である干し草畑や芝生等は取るに足りないものに見えた。地平線なき平原、諸惑星をコルクの様に浮かべてしまえるだけの深さを持った海、そして「とがった丘の頂きの如き木々」の「斯くも途方もなき森林」。彼は目を閉じ、思考を内側に落とし込み、それらに従って身を沈め、口に出して唱えそして——見さえすればよかった。

 彼の想像力は思い描き、生み出した——世界達を。しかし彼がその真の生きた名前を発見するまでは、それらの世界の裡で生き始めるものはひとつもなかった。名前は生命の息吹だった。そして遅かれ早かれ、彼は必ずそれを見付けた。

 一度彼は、彼の創造した小男が夜彼の妹の部屋の窓を通ってやって来て、「彼女の身体の他の部分と一緒に眠りに落ちてしまわなかった」髪の毛を全部引っこ抜いて、自分用の庇の付いた帽子を織るぞ、と断言して彼女を怖がらせた後で、彼女を言われた様な略奪行為から守る為に独特の方法を採った。彼は自分の想像力が生命を与えたものが実現することを固く信じ、夜っぴて彼女の窓の下の芝生の上に座って見張りをした。

 彼女はこのことを知らなかった。それどころか、彼は彼女に、小男は突然死んでしまったのだと言い含めておいたのだ。唯彼は、それを確実にする為だけに起きていたのだ。そして、八才の少年にとっては、十時から、夜用子供部屋にある自分の場所に這い戻った朝の四時までのこうした冷たく呪われた時間は、終わりなきものに思えたに違いない。彼は見ての通り、信念や想像力同様、勇気も持ち合わせていたのだ。

 だがこの小男の名前は「ウィンキィ」と云う、凡そ物々しからぬものだった。

 「あいつはお前に痛いことなんかしないって知ってただろう、テレサ」と彼は言った。「そう云う名前をしたやつは誰だって、蠅みたいに軽くて、とっても礼儀正しいものなんだ——まるっきりなよなよした奴なのさ!」

 「だけとあいつはきっと鋏を持ってるわ」と彼女は抗議した。「さもなきゃ髪を引っこ抜くなんて出来ないもの。ハサミムシみたいな奴よ。うえッ!」

 「ウィンキィに限って! まさか!」彼は自分で生み出したものの評判に嫉妬して、蔑むように説明した。「あいつはきっと変ちくりんなちっちゃい指を持っていて、それでやるんだよ」

 「ならそいつの指の先っぽは鉤爪になってるのよ!」彼女は言い張った。どれだけ説明したところで、ウィンキィと云う名前をした人物が立派で礼儀正しいものだと彼女を説得することは出来なかっただろう。仮令彼が「一瞬よりも速」かったとしてもだ。彼女は彼が死んでくれて嬉しいと付け加えた。

 「だけど僕は簡単に他のを作れるんだ——小さくてすばしこい乞食みたいなのや、最初のより倍も跳ねるやつをね。唯僕がそうしないってだけのことさ」彼は寛大に付け加えた。「お前を怖がらせちゃうからね」

 彼にとって、名付けることは創造することだった。彼は唯幾許かの距離を、自分の大きな心の草原地帯の中へ向かって走り出しさえすればよいのであって、特定の命令調で或る名前を口に出すと、忽ちその所有者がその権利を主張しに駆け寄って来るのだった。名前は魂を描き出した。物や人の名前を学ぶことは即ち、それらについての全てを知り、それらを彼の意志に対して従順にさせることだった。そして唯一「ウィンキィ」こそが非常に柔和でフサフサした小さな人物であり得たのであり、影の様に素早く、鼠の様に敏捷だった——女の子のフワフワした髪の中から実際に (、、、 )とんがり帽子を出してみせ……しかもそうした悪戯が大好きな類いの奴だ。


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