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 彼は華奢で、上品で、変わり身が早く、概ね用心深かった。殆ど跳ねるのに近いちょこちょことした歩き方をしていたので、急いでいる時には舗装道路を「くるくる (スピニング )」下っている、か、階段を昇っているかの様な見掛けをしていた。常に何かフワフワした素材の衣服と、短いカラーに明るい赤のタイを着用していた。柔らかな桃色の頬と、踊る青い目、だらしのないザンバラな髪をし、若さの割には痩せ気味で、疑い様もなく羽根の様だった。四肢は小さく敏捷だった。彼が両手をポケットに深く突っ込むと云う自分の好きな姿勢で立ち、上着の裾が殆ど広がらずはためいたりせず、首を一方に傾げ髪を乱し、高く囀る様な、しかし非常に気持ちの良い声で話す時、其処で——ええと——スピンロビン、ボビー・スピンロビンが「精を出して」いるぞと結論付けない訳にはいかなかった。

 彼は自分の探し求める類いの冒険を約束してくれるあらゆる「仕事」に就いたので、奇妙なもの程歓迎なのだった。自分の今の職業が何にもならないと云うことを見出すや否や、彼は何か新しいものを見て廻った——主に新聞の広告で。丁度大勢の変人が新聞に手紙を出す様に、大勢の変人が新聞に広告を出していることを彼は知っていた。それでスピニィ——彼を愛する者達から彼はそう呼ばれていた——は「身上相談」や「求人」として知られる欄の熱心な研究者であった。彼が二十八の年になって職を失うと直ぐに、以下に述べる出来事の糸が彼の人生のパターンの中に織り込まれて来て、疑問と驚異とを引き起こすのに十分な類いの「何かへ導いて」行った。

 餌を成すところの広告は以下の様な文面だった。


  「求ム。当方引退牧師。勇気と想像力のある秘書兼助手。テノールの声とヘブライ語の本質的要素についての若干の知識。独身。浮世離れ (、、、、 )。応募先フィリップ・スケール」——以下住所。


 スピンロビンはこの餌に丸ごと食い付いた。「浮世離れ」と云うところがぴったりで、彼は燃え上がった。彼は他の資質も持っている様に見えた。と云うのも、非音楽的ならざる細いテノールの声を彼は持っていたし、その言語の中に登場する素敵で高尚な響きのする神性や天使の名前が好きだった為に、ケンブリッジで拾った生齧りのヘブライ語にしてもそうだった。勇気と想像力は、残りのものと一緒に謂わば溢れんばかりで、好んで用いていた金縁の日記に彼はこう記した。「スケールのおかしな広告を引き受ける。この男の名前が好きだ。この経験は多分冒険になる。変化のあるところ、希望もあり」彼は諺を自分なりに変形して使い熟すのが好きだったので、この日記は似た様な馬鹿げた間違った引用でいっぱいだった。


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