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 翌日、千人の乗客達はそれぞれにゲームをし、本を読み、お喋りをし、何時もの様に富籤をするが、士官のひとりが少しぐったりして見えることにさえ気が付かない。

 扉はもう大工が直してしまった。そして或るひとりの操舵士が舵輪の前に立つことはもう二度と無い。残りについては全てが普段通りで、誰も知ることがない———つまり、士官達の集まりの外では、と云う意味だが。唯、船室係達から或るおかしな噂が洩れるだけだ。

 そして、或るひとりの男は、彼の父親の息子の名に死を冠してはいない。

 そして、その千人は決して知ることがない (、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 )。考えてみるがいい、鋼鉄と電気の光で出来た浮かぶ宮殿で海へと乗り出す人々よ。そして船橋に居る、青い制服にぴっちりと身を包んだ、寡黙で、勇敢な男に対して、黙って祝祷を投げ掛けるがいい。君達は考えもせずに彼に自分達の生命を託して来たのだ。そして彼は万に一度たりとも君達の信頼を裏切ったことはない。これで少しは理解出来ただろうか?












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