前の頁へ
1 23




 ずっしりしたクローヴァーが色鮮やかな風に燃え立つ時、蜂達が白い茨の中をブンブンとうろうろしたり、或いは素早く唸りを上げる弾丸の様に通り過ぎる時、屍出虫は黒と橙の羽をパチリと開き、蜂達と一緒にクローヴァーの中をブンブンと通り過ぎる。薫り立つ庭園の中の〈死〉、若々しい魅力的な胸の上の疫病の徴、〈破壊〉の腕の中へとよろめく者の顔に現れる恐怖の灰色の旗印、春の膝の上を急ぎ行き、艶のあるその羽を折り畳み、蜂の唸りを真似る為に折り広げ、甘いクローヴァーの天辺を通って、彼を呼びつける腐臭放つ肉体へと向かう屍出虫——これらのものどもはあるべきであり、また終わりが来るまであらねばならない。

 屍出虫は今や走っていた——小枝や泥の上を蜘蛛の巣を引き摺り乍らひた走っていた。森の縁は近くだった。劇場の中の緑の舞台装置の様に、崖を横切って何マイルも広がっている、色鮮やかな草地同様に天然の、冬小麦が見えたのだから。そして私が脆弱な森の外れをのろのろと進んで行くと、小麦の中に顔を下にして人影が横たわっているのが見えた——少女のほっそりした姿が、四肢が、動かずに。

 屍出虫は彼女の胸の下に突走した。

 その時私は彼女の傍に身を投げ出し、叫んだ。「リース、リース!」そして私が叫ぶと同時に、俄に氷の様な雨が一斉に荒れ野を覆い尽くし、お化けの様な森林全体がさわめき立ち踊り狂うまで木々がその硬直した四肢を一堂に叩き付け、風が崖の狭間で唸りを上げた。

 それから〈死の舞踏〉が続く間リースは私の腕の中で震え、啜り泣いて私にしがみ付き、〈紫の皇帝〉は死んだと呟いた。しかし風が彼女の白い唇から言葉を毟り取り、それらを冬の稲妻がグロワの荒涼とした高みを打ち付けている海の向こうへと投げ捨てた。

 その時死の恐怖が私の魂の中で静かになり、私は彼女を地面から起こして、ひしと抱き締めた。

 そして私は屍出虫が、私達の直ぐ向こうで地面の上を急ぎ、翼が硬直し、泥だらけで、雨の中ぽつんと横たわっている死んだ雲雀 ヒバリ の下に避難場所を求めるのを見た。



 嵐の中、私達の頭上で、鳥が一羽雨越しに歌い乍ら舞っていた。それは私達を二度通り過ぎ、まだ歌い続けていたが、再び通り過ぎた時、私達はそれが世界の上に投げ掛ける影が雪よりも白いのを見た。


前の頁へ
1 23


inserted by FC2 system