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風吹き狂う空
西方へと伸びる荒れ果てた原野
妙に落ち着かなげに低く呻く海——
鴎の鳴き声
潮に洒われ
巌々は衰えゆく光の下で陰気に横たわる
泡
(
あぶく
)
は飢えた長い白の帯となって弾け
飽き足らずにいる
ベイトマン
家の持ち主達が戦く日々に。
初めて私がその屍出虫を見た時、彼は石の背後に
凝
(
ジ
)
ッと立っていた。目下彼はまた動き出し、時々止まり乍ら、何時も私をゾッとさせる神経質なギクシャクとした動きで左右に身を捻った。
彼の通り路は、小さな茶色の流れの土手に沿った湿った地層に散らばった枯れた苔や萎びた草を横切っており、そして私は、彼の用事は何だろうかと思い乍ら、腐りかけの森土の上を静かに通って後を尾けた。一度か二度、彼は私のことを聞き付けたのだが、と云うのも私はくすんだ森の中の黒と橙の染みである彼が急に立ち止まるのを見たからだ。しかし彼は何時もまた歩き始め、どうかすると、死者が痺れを切らしてでもいるかの様に先を急いだ。
十一月の森の中を私が尾けて歩いた屍出虫は、神が世界の中で独りぼっちで死ぬ小さなもの達を埋葬する為に遣わしたちっぽけな被造物のひとつだったのだ。葬儀屋であり、屍出虫であり、唖であり、墓掘り人夫でもあるこのものは、黒と橙とに身を包み、世界に注目されずに死ぬ全てのものを埋葬するのだ。だからしてこう呼ばれる——この黒と橙の小さな甲虫——「屍出虫」と。
その急ぐこと急ぐこと! 私が灰色の空を見上げると、灰白色の枝々が織り混ざって感知出来ぬ風に揺れており、また乾燥した葉が木々の梢でカサカサと音を立て、団栗が腐土の上にドサッと落ちるのが聞こえた。地味な鳥が一羽、一群の雑木林の中から私の方を覗き見、それから葉の上をパタパタと駆けて行った。
屍出虫はやや荒れた地面に辿り着き、頭上にある萎びた草の茶色の薮に向かって木切れや溝の上をアタフタと押し分けていた。私は敢えて手助けはしなかった。私は彼に手を触れる気にはなれなかったし、また彼は物凄く自分の用事に没頭していたのだ。
私は少し立ち止まった。自分の死者を見付けて処理しようとするこの生きた被造物の熱心さ。死の香りとこの小さな森の世界の中の腐敗。其処で私はリースが咲き乱れる
玻璃金雀枝
(
ハリエニシダ
)
の中を動き廻り、風に舞う
歌鶇
(
ウタツグミ
)
の様に歌った春を待ち受けたことがあった——これら全てに悩まされて、私は遅れを取った。
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