前の頁へ
1 23 4

次の頁へ



 一行はゆっくり、その館のある所まで通路を下って行った。それは非常に大きく、また非常に古かった。まるで前世紀の大使館の様に見えた。ウィリアムズが口笛を吹き、扉を二度ノックし、そしてまた口笛を吹いた。すると扉が黒衣の男によって開かれた。

 「お友達ですか、ミスター・ウィリアムズ?」

 ウィリアムズが頷き、一同は中に入った。

 「心しておいてくれ」と彼は囁いた。「君等は誰にも見覚えがないし、誰も君等に見覚えはない」

 二人の友人達が頷くと、扉が開かれて、彼等は電気のランプで明るく照らされた広大な部屋へと入った。人々が群れを成して立ち、うろうろと歩き回り、小卓で煙草を吸っていた。それは丁度何処のクラブの喫煙室でも見られる光景だった。会話は行われてはいたが、それは低い囁きで、そちこちで誰かが話すのを止め、部屋のもう一方の隅にある扉を不安気に見、そしてまた向こうを向いた。彼等が誰かを、何者かを待っていると云うことは明らかだった。オースティンとフィリップスはソファに座っていたが、仰天し乍ら途方に暮れた (ロスト )。殆ど全員の顔が馴染みのあるものだったのだ。騒ぎの花形がその奇妙なクラブの部屋にいた。若い貴族が何人か、つい最近莫大な財産を手に入れた若い男、著明な俳優、よく知られた参事会員。これは一体どう云うことか? 彼等は全員、居住可能な地球上の遙か遠くに散らばっている筈なのに、しかしここにいるのだ。突然、扉に大きなノックの音がした。全員が注視し、座っていた者達は立ち上がった。給仕が現れた。

 「会長が皆様をお待ちです」と彼は言って、消えた。

 一人ひとり、全会員が列になって出て行き、ウィリアムズと二人の客人達は殿 (しんがり )についた。すると最初のものよりまだ大きな部屋に出たが、殆ど真っ暗なのだった。会長は長いテーブルに着いており、彼の前では二本の蝋燭が燃え、僅かに彼の顔を照らしていた。それはかの有名なダーティントンの公爵で、英国一大きな領地の持ち主だった。会員達が入ってしまうと直ぐに、彼は冷たく厳しい声で言った。「諸君、我々のルールは知っているね。本は用意してある。黒い頁を開いた者は誰であれ、委員会と私との処分を受けることになる。さぁ始めなくては」。誰かが低いがはっきりした声でそれぞれの名前で休止し乍ら、名前を読み上げた。そして呼ばれた会員はテーブルの所へ来て、二本の蝋燭の間に置かれている、大きなフォリオ綴じの頁を無作為に開いた。薄暗い光が、人影を判別するのを困難にしていたが、フィリップスは彼の隣で唸る声を聞き付け、旧い友人を認めた。彼の顔は恐ろしげに怯え、明らかに恐怖の苦悩に囚われていた。一人ずつ、会員は本を開いていった。各員がそうしてしまうと、彼等は別の扉から出て行った。とうとう最後に一人が残った。それはフィリップスの友人だった。彼がテーブルの所に行った時、彼の唇には泡が立っており、頁を開くと、その手は震えていた。

 ウィリアムズは会長に囁いた後出て行き、それから友人達の側に戻って来ていた。その不運な男が苦悩に呻き、テーブルに寄りかかった時、彼は友人達を制止するのに苦労した。彼はその本の黒い頁を開いてしまったのだ。「私と一緒に来て下さい、ミスター・ドービニィ」と会長が言って、彼等は連れ立って出て行った。

 「もう行っていいんだ」とウィリアムズが言った。「もう雨は上がったんじゃないかな。約束を忘れないでくれよ、諸君。君達は失踪クラブの会合に出ていたんだ。君達があの若者を目にすることは二度とないだろう。お休み」
 「これは人殺し (、、、 )じゃないのか?」とオースティンが喘ぎ乍らそう言った。

 「いや、いや、全然違うよ。ドービニィ君は多分後何年も生き続けるよ。彼はいなくなった、唯単にいなくなったんだ。お休み。君達の為に馬車を待たせてある」


前の頁へ
1 23 4

次の頁へ

inserted by FC2 system