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 それは不幸せな時代ではあったが、丁度その夜かの思い付きが彼の許を訪れ、休日が実に待ち遠しい、十倍も待ち遠しいものになった。毎日、一日中、彼は彼の大いなる考えを彫琢し、更に精巧に仕上げた。彼は前と変わらず馬鹿で、人気がなく、無益な存在であったが、最早惨めではなかった。

 学期の終わりに家に帰ると、彼は仕事に取り掛かるのに一刻も間を置かなかった。眠く、朝には頭が重いのは事実だったが、それは彼が夜遅くまで働いていたからだった。日中は大して出来ないことが分かった。両親は彼の振る舞いをスパイしており、彼は自分が嘘や説明をでっち上げるには鈍過ぎるのだと分かっていた。彼が戻った次の日、父親は、彼がコートの下に何かを隠して、低木の植え込みの暗い角へとこっそり歩いて行くところに出会した。空のビール瓶が取り上げられた時、彼は唯突っ立って絶望的で白痴的な目付きで見ていることしか出来なかった。緑のガラス瓶で何をする積もりだったのか、何がしたかったのか、彼は言うことは出来なかった。父親は馬鹿な遊びをするもんじゃないと言い残して去って行ったが、彼は自分が始終見張られているのだと感じた。彼が台所から紐を取った時、メイドの一人が彼が廊下を歩いて行くところまで凝っと見ており、それで母親は彼が木々の中の一本の幹に、大きな丸太を縛り付けようとしているところを見付けた。彼女は彼が何をしているのか、彼がもっとまともな遊びを見付けられないものかどうか知りたがったが、彼は母親を白く重い顔で凝っと見続けた。彼は自分が監視されているのを知っていたので、夜に仕事をした。隣の部屋で寝ていた二人の召使いの娘は、何か怪しい音が聞こえる様な気がして何度も起きた。「チャリン・チャリン」とその一人がその感覚を言い表わしたのだが、それが何なのかは分からなかった。

 そして愈々彼の準備が整った。彼は或る午後「ぶらぶらとそぞろ歩」き、図らずもシャーロッテ・エミリーと出会した。十二になる小さな女の子で、近所の娘だった。ハリーは途端に鈍い燃える様な赤に紅潮した。

 「僕と海岸の方へ散歩に行かない?」と彼は言った。「うんって言ってよ」

 「あら、駄目よ、ハリー。お母さんが嫌がるわ」

 「来てくれよ。新しいゲームがあるんだ。とっても面白いんだよ」

 「本当? どんなゲームなの?」

 「ここじゃ見せられないよ。だから海岸の方へ行こう、僕が直接ついて行くからさ。行ってくれるだろ?」

 ハリーは装備一式を置いておいた隠れ場所へ全速力で走って行った。彼は直ぐにシャーロッテに追い付き、二人は一緒に寂しい森に覆われた丘を、一マイル向こうの海岸の方へと歩いて行った。少年の父親がこれを見ることが出来ていたらさぞ驚いたことだろう。ハリーはあの鈍い赤い色に輝き、燃えていたが、シャーロッテの側を歩き乍ら彼は笑い声を上げた。

 彼等が森の中で二人っきりになった時、シャーロッテが言った。

 「さぁゲームを見せて頂戴。約束だったでしょ」

 「分かってるよ。だけど僕の言う通りにしなくちゃいけないよ」

 「ええ、分かったわ」

 「痛くっても?」

 「ええ。でもハリーはあたしに痛いことなんかしないでしょ? あたしあなたが好きよ」

 少年は彼女を見詰め、その鈍い、魚の様な、明るい青色の目で覗き込んだ。彼の白い不健全な顔は、殆ど恐怖の表情で彼女を睨み付けた。彼女は浅黒い少女で、オリーブ色の肌、黒い瞳と黒い髪、その髪の薫りは、ぴったり一緒に歩いている最中にもう半ば彼を陶酔させていた。


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