前の頁へ
12




 彼は誰かが、民間人の殺害がそうなった様に、戦争も何時かは時代遅れになるのだ、そしてこの戦争も、沢山の暗がりが照らし出されることになる新しい時代の、紅の暁に他ならないのだと言うのを聞いた。平和と善意が今日の思想と成り得ないのであれば、それはきっと、明日の思想なのだ。その偉大な明日の思想に薄々感付いてはいる者達が、今日の最上の理想の為にとは云えそれを放棄するとは何と悲しいことだろうか。運命は、戦っている彼の友人達よりも先に、彼にその暁を垣間見させた。彼が目を閉じるならば、何と悲しいことになるだろうか。

 帰国することについて、彼は嬉しくも、満足でも、賛成でさえなかった。だが彼が戦わないであろうと云うことは全く確実であった。新しい思想(それはまた非常に古い思想でもあったのだが)の展望は極く微かなものであった。それでもそれはひとつの展望であって、彼に忠誠を命じるものでもあった。多分結局、彼は過ちを犯そうとしていたのだ。だがそれは気高い過ちであった。その展望は、彼の魂の生命を懸けてでも追い求めねばならぬものなのだ。

 運転手は定位置まで車を後退させた。キャンプまでとぼとぼと歩いて行って、手強い敵をベッドから引っ張り出し、うたた寝をするコックの顔でも舐めていろとその子犬に言い付けて、朝の身支度を始めた。疑いの荒野で彼を(いざな )った沢山の調べが、また聞こえて来た。毎回少しずつ、展望は以前よりはっきりして来ていた。

 彼はうってつけではないだろうか?


前の頁へ
12


inserted by FC2 system