ロバート・ウィリアム・チェンバース
(Robert William Chambers,1865-1933)


生涯

 1865年ニューヨーク、ブルックリン生まれ。1889年画家を目指しパリに渡り、ジュリアン・アカデミーに留学。アメリカに帰国後は雑誌の『ヴォーグ』や『ライフ』等の雑誌の挿絵画家として活躍するが、1895年に短編集『黄衣王』が好評を博してからは作家業に専念する。その後怪奇幻想作家として人気を高めるが、やがて歴史小説やロマンス小説の方に力を入れる様になり、「女店員のシェヘラザード」として当時のベストセラー作家達と名を列ねた。


解説

 日本ではチェンバースの名前は短編集『黄衣王』に収録されている「黄の印」僅か一篇によってのみ知られている。この短編集では「カルコサ」「ハリ湖」「ハストゥール」「ヒヤデス星団」等、アンブローズ・ビアスが用いたタームが流用されて謎めいた雰囲気を掻き立てているが、これが後にラヴクラフト・サークルに注目されることによって、クトゥルー神話との繋がりを果たした。読んだ者に災いを齎すと云う因縁を持つ戯曲『黄衣王』が各話を繋ぐ役割を果たしているのだが、これがかの魔導書『ネクロノミコン』を創り出すヒントとなったことは、ラヴクラフト自身が認めている。

 ラヴクラフトは「文学に於ける超自然的恐怖」の中でチェンバースの作風を「フランスのアトリエのややつまらない気取った上品ぶった雰囲気が漂ってはいるけれども、かなり顕著に宇宙的恐怖をものにしている」と評しているが、確かに彼の作品には屡々ボヘミアンと云うか巴里の亜米利加人を気取った描写が見られ、パリ時暮らし時代の影響が顕著である。それが彼の作品全体に何処か知ら似非と云うかアングラめいた印象を与えている一方で、時には不思議なことにポオやダンセイニに劣らぬ神秘的な寓意性、象徴性を醸し出すこともある。作風は真面目な倦怠と不真面目なブラックユーモアの間を行ったり来たりしており、やや当たり外れがないものでもないが、初期の怪奇幻想小説の中には真に記憶さるべき恐怖を描き出すことに成功しているものも少なくなく、もっと知られてもいい作家である。



主要怪奇幻想作品一覧

 The King in Yellow(1895)
  'The Yellow Sign'
   「黄の印」(森美樹和(=大瀧啓裕)訳、『ク・リトル・リトル神話集』、国書刊行会、1976)
   「黄の印」(大瀧啓裕訳、『クトゥルー3』、青心社文庫、1989)
 The Maker of Moons(1896)
 The Mystery of Choice(1897)
 In Search of the Unknown(1904)
 The Tracer of Lost Persons(1906)
 The Tree of Heaven(1907)
 Police!!!(1915)
 Slayer of Souls(1920)

この他未確認邦訳に
  「ウェヌスの印」(大滝啓裕訳、『幽霊奇譚』、牧神社、1977)



以下の文献、レビューも参照

 The Yellow Sign and Other Stories (Chaosium, 2000)



『選択の謎』より「葬送」 へはこちら から



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