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 どの位横になっていたのかは分からないが、夜の裡に私は起き出して、ガラスの嵌まっていない厚い窓越しに道の向こうを見渡したらしい。不思議な光が世界全体でゆらめき、そして黯い空は炎へと変わった。天上の大渦の中、塔なぞなかった所に化け物じみた塔が聳え立ち、大宇宙の稲妻がその高みで目眩き猛威を揮った。光の波濤がその底面の辺りをゆらめき、そうした諸勢力がその力を揮う度に、白熱した破片が剥がれ落ちていた。どれ程の瞬間そうだったろうか、稲妻はその海蛇の如き白熱光を投げ飛ばしたのだが、それから塔がゆっくりと光輝を放つ燠の中で崩れ落ちた。規則的な閃きが壁の内側で交わり、融け合うと、それはまるで何か魔神 デモン-ゴッド がその頂を齧り取っているかの様に見えた。それは半分しか高さが残らなくなるまで一歩一歩ゆっくりと齧り取ってゆき、天空は今や恐るべき勢力によるひとつの炉と化していた。そして私が戦き乍ら見詰めていると、柱成す燠の中に強大なるが現れた。断片は平原に衝突したのだが、それらの間でゆっくりと起き上がり、私の心臓を恐怖で捻り上げたあの忌わしい形を成すものがあった。白炎の中の座せる巨人 タイタン 。その大きさと形状に於て信じ難い或る物体。燃え殻となった狭間胸壁はその人影の腰の辺りに閃く灰の中へと消え、そして下方からは小山成す燠が巨人 コロッサス を見えない目で凝視した!

 ………私の夢見は変化し、怯えで冷たくなり、私は衣類とナップザックを掻き毟って、指に当たる銀や鋼鉄、真鍮の欠片があれば死に物狂いで捩じ切った。精妙なる本能が、金属はあの盲目で貪欲な凝視の的なのだと囁きかけたのである、私は留め具や釦をいちいち取り外すと、巨人 コロッサス が途方に暮れ、私を無傷の儘残して他の場所へよろめき行くようにと、闇の中へと投げ捨てた。こうして私は夢から神秘的な夢へと転落し、やがて気が付くと目が覚めて、壁の上の新しく昇った月の姿を凝視していた。

 夢のお陰で汗をかき、戦慄 わなな き乍ら、私はその驚異の正体を推測しようとした。それから私の恐怖が闇の音を悉くぐるぐると眠気を催す戦慄へと変えていった。寒く、震え疲れ果て、ゆっくりとした月が闇の中を横切って行くのに合わせ、私は凝っと横になった。

 夜が過ぎて行くにつれて私の戦慄は褪めてゆき、私は自分の幻視 ヴィジョン の異様さに首を傾げた。霧のかかった夜明けに勇気づけられて、日の光が平原に広がると、私はあの途方もない円柱体のあった場所を期待を込めて見た。しかし唯古代の瓦礫の山を除いては其処には何もありはしなかった。若し塔が曾て聳え立っていたことがあるとすれば、その痕跡は全て歳月の直中へと消えてしまっていたのだ。



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