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  闇と永劫はびこる雑草とが覆い尽くす平原を貫いて、煌めき輝く道路が通っていた。ぼってりとした植物が崩れかけた地表の上を這い廻り、数多くの亀裂を突っ切っていた。道は古く、殆ど使われていなかった。と云うのも、その古々しい、半ば忘れ去られた道筋を行き来する理由のある者はいなかったからだ。それは黯い雲に覆われた重苦しい空の下でぽつんと横たわり、歳月による崩壊にも関わらず真直ぐで、はっきりした輪郭をしていた。何世紀も炙り続けてきた太陽も、鉛色の空から降り注ぐ絶え間ない雨も、その痕跡を消してしまう程の力はなかったのだ。

 荒れ果てて荒涼とした台地が影もなく目地の限りに広がり、その向こうではぼんやりとした地平線が、太い松の森霞みと溶け合っていた。朽ち果てつつある地表や塔成す草の連なりの中にあるあらゆる亀裂が見捨てられた地であることを声高に示しており、曾て人がこの古々しい路線の傍らに住んでいたことなどは否定してしまうだけの無思慮さを招いていた。しかしこれは誤りだった。と云うのも、その片側にはどっしりした石のビルディングが蹲っており、その途方もない大きさにも関わらず、匠の技によって形作られていたからだ。粗野な厚板はその重みだけで圧壊しそうで、一匹の象が芸術的な配慮によって配されており、灰色の古代の壁には裂け目が殆どなかった。小さめの裂け目の中や、地面から低い所にあるガラス張りされていない窓を通って、生い茂る暗色の葉をした蔓や房が這い擦っていたが、重厚な部屋の中の四角い敷石を乱すものは何もなかった。人類は、蛆虫共が緑の腐土の層の中で精を出しているその偉大なる家に近頃は住んでいなかったのかも知れないし、或いはその石敷きが現世の足音を谺させてから永劫が過ぎ去ったのかも知れない。私は知らないし、何等かの記録が成されたこともない。と云うのも、我々はこれ、世界の最後の時代については無頓着だったからだ。人間性は疲弊し、死を厭わなかった。

 或る月のない夜、茶色がかった闇の澱みが雑草の間に湛えられる頃、死せる台地の上に朧に輝く星々の明かりを頼りとして、私は古代の通り道を闊歩した。寄生性の群生物が脚を掻き毟ってくる道路の、腐食した小片群の上を私は急いだ。それから通り道の中で海蛇の様に輪になっている粘着性の蔓の間を跨いで行った。闇の寒気が私を急き立て、そして遠くの星々の明滅するレースに導かれて、私は静寂の荒涼とした土地を進んで行った。衣服の分厚さが死にゆく〈地球〉の寒気と戦っていたが、若し太陽がこの裸の平原を越えて私を見つける様なことになれば、休まなければならなくなることを私は知っていた。私は草の直中で横になり、背負っていたナップザックの上で眠らざるを得ないところだったが、道沿いにある石造りの無人の家並みのことを聞き及んだことがあり、しかも地面は濡れて湿っぽくなっていたので、私は何処かぽっかりと割れた廃墟で眠りたいと思った。

 星々を背にして現れた暗い巨体に終に辿り着いた時、私の目は捜索の為に弱っていた。他の似た様なものが近くの瓦礫の中に横たわっているのが見えたが、私は急いで最も近くのものを選び、明かりのない玄関の前に立った。夜の謎がすっかり其処に具現化していて、私は暫く躊躇った。しかしそれから私は慎重な一歩を踏み出し、その中に入った。

 私は消え去った生命の徴候を予想していたのだが、私の前に姿を現したのは侘しさと硬い石だけだった。中に差し込む星の光は少なかったが、唯ひとつしかない松明を敢えて無駄にすることはしなかった。海蛇共から避難出来る所を求めて手探りをすると、床から一ヤード程上の壁の中に薄暗い空洞が見付かった。くたくたになって入り込むと、私は小袋を枕頭に置いて硬い表面の上に横たわった。こうして休むと、急に眠気が襲ってきた。



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