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 キャシディは荒っぽい大男だったが、偶像の所までのし歩いて行き、手をそれに載せた。彼は素早く手を引っ込めたが、顔面は蒼白で、口はわなわなと震えていた。私は自分の非科学的な嫌悪感を抑え付けて彼の後を追い、石を検べてみた。それは小屋や、実の所そこの全てと同じ様に、明らかに、南大平洋にその遺跡が散らばっている忘れられた種族の手になるものだった。翼の彫刻は素晴らしかった。それは私が言った様に蝙蝠の翼に似ていて、折り畳まれ、それぞれの端にはおざなりな羽根で出来た小さな輪があった。それらの大きさは四から十インチに及んでいた。私はそのひとつの上に指を走らせてみた。その偶像の前で私に膝を折らせたあの嘔吐感と同じものを、私はまだ味わったことがない。翼は滑らかな冷たい石の様に感じられたが、私にはその石の背後に居る、何かより低次元の化け物じみたいやらしい生き物に触れたと云う感覚があった。無論私は合理的な説明を付けたのだが、その感覚は単に石の温度と肌理から来たものである———しかしこれは本当に私を納得させた訳ではなかった。

 夕闇が迫っていた。我々は浜辺に戻り、空地のことは明日更に詳しく検べることにした。私はあの石の小屋を探検したいと大いに熱望していた。

 我々は森を抜けて戻り始めた。暫く歩いて行くと、夜が訪れた。我々は小川を見失った。半時間も彷徨った後、我々は再びそれを耳にした。我々はそこへ出発した。木々が疎らになり、我々は、浜辺に近付いているのだと考えた。するとウォーターズが私の腕を掴んだ。私は立ち止まった。我々の真直ぐ目の前に、月の下でこちらを横見し、足元に緑の水を輝かせた石の神のいる、開けた土地があった。

 我々は一回りしてしまったのだ。ベイツとウィルキンソンは疲れ切っていた。キャシディは、何が何でもその夜は池の側でキャンプする積もりだと言い張った。

 月は非常に明るかった。それにとても静かだった。科学的好奇心に打ち負かされ、私は小屋を検べてみようと思った。私はベイツを見張りに残して一番大きな小屋に向かった。そこにはたったひとつの部屋しかなく、壁にある隙間を通して輝く月光が、そこははっきりと照らし出していた。後ろの方には石の中に置かれたふたつの小さな鉢があった。そのひとつの中を覗き込むと、多数の球形の物体から反射する微かな赤い煌めきが見えた。私はそれらを五つ六つ外に出してみた。それらは真珠だった。奇妙なことに薔薇の様な色合いをした非常に素晴らしい真珠だ。私はベイツを呼ぼうと扉へ向かって駆けた———そして立ち止まった!

 私の目は石の偶像へと引き付けられた。あれは月光の加減によるものだったのか、それともそれが動いたのか? いや、それは翼だった! それらは石から浮き出してうねった———断言するが、あの化け物じみた像の足首から頚部まで、それらはうねったのだ。

 ベイツもそれを見た。彼はピストルを構えて立っていた。それから一発撃った。するとその後、大気はまるで千もの扇風機が猛回転する様な音で満たされた。翼が石の神からひとりでに離れ、雲に包まれて四人の男に襲い掛かったのが見えた。別の雲が沼から急上昇してそれらに加わった。私は動けなかった。翼は急速に四人の周りを旋回した。今や全員が立ち上がっていたが、私は彼等の顔に浮かんでいたあの様な恐怖を見たことはなかった。

 それから翼が迫って行った。それらは石にしがみついていた様に、我が同胞達にしがみついた。  


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