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 数日後、ミス・カスタンスは独りでコテージにやって来た。扉をノックする彼女の手は震えていた。

 「済みました?」老婦人が現れると彼女はそう訊いた。

 「お入り、お嬢さん」とワイズ夫人は言って、扉を閉め、木製の閂を掛けた。それから彼女は暖炉へとにじり寄り、石の中にある隠し場所から何かを取り出した。

 「これを御覧」彼女はそれをうら若い令嬢に見せ乍ら言った。「生き写しでしょう?」

 ミス・カスタンスはその物体を肌理の細かい繊細な手に収め、一瞥したが、すると真紅に頬が染まった。

 「何て恐ろしい!」彼女は叫んだ。「これどうしたんですの? 仰ってくれなかったじゃありませんの」  「これしかないんですよ、お嬢さん、貴女の欲しい物を手に入れるにはね」

 「胸が悪くなるわ。御自分が恥ずかしくないんですの?」

 「恥ずかしいですよ、多分貴女と同じ位にはね」とワイズ夫人は言って、可愛らしい、内気な顔をした娘に横目を送った。彼女達の目が会ったが、その目は互いに笑っていた。

 「隠してしまって下さいな、ワイズさん。とにかく今これを見る必要はありませんわ。だけど確かなんですの?」

 「クラドックの奥さんから教わってから、間違いなんて起こったことありませんよ。あの人ももう六十年以上も前に亡くなってしまったけどねぇ。あの人は、森のあそこで集会が開かれていた、あの人のお祖母さんの時代のことを、よく話してくれたもんですよ」

 「本当に確かなんですの?」

 「言った通りにやるんですよ。こんな風に持つんです」そうして老婦人は指示すべきことを囁いて、それを実演しようと手を伸ばそうとしたが、娘はそれを押し遣った。

 「もう分かりましたわ、ワイズさん。もう止して下さい。仰りたいことはよく分かりました。お金はここに」

 「何をする時でも、言っておいた通り軟膏を忘れるんじゃありませんよ」とワイズ夫人は言った。



                    ***



 「お気の毒なワイズさんに読んで差し上げに行って来ましたの」とエセルはその夜ナイト大尉に言った。「あの方は八十を越していて、視力がとても悪くなって来ているんですの」

 「結構なことですね、カスタンスさん。本当に」とナイト大尉は言って、客間のもう一方の端に移動した。それから、黄色の服を着た娘と話し始めたのだが、彼女とは、皆が食堂から入って来てからずっと、遠くから笑みを交わし合っていたのだった。

 その夜、自室で一人きりになると、エセルはワイズ夫人の指示に従った。彼女はあの物体を引出しに匿しておいたのだが、彼女はそれを取り出すと、カーテンはきっちり引かれていたにも関わらず、周りを見回した。

 彼女は何も忘れてはいなかった。そしてそれを終えてしまうと、彼女は耳を澄ませた。


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