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 「川の方はどうだったんだい?」

 「川は一日中、そうした忘れ難い土手の下のSの字達の中で揺らめいて、色は無かったものの、周囲の世界全てと同じ様に光っていて、まるで象形文字だった。到々夜になって、僕は坂にある洋種春楡の下に座っていたんだが、そこで僕は薫りを吸って、森のずっしりとした静けさを知った。それから強い風が吹いて天高くまで上がり、灰色のヴェールが消えた。空は澄んだほの昏い青だった。西には乳白色の燃え上がる緑が、下には紫の壁が現れていた。それから、その紫の真ん中に、裂け目が開いた。赤い閃光があって、赤い一瞬の光線があって、まるで薔薇の様に熱い金属が、金床の上で打ち延ばされ、凹まされ、火花が外へと逃れ出た様だった。こうして太陽が沈んだ。

 「僕は待って、薄闇の中に沈んで、くすみ、形を失ってゆく谷を、川を、平野を、森をすっかり見てしまおうと思った。光が川から出て来て、物悲し気な葦原と草の間を流れると水が青白く光った。鋭い陰鬱な叫びが聞こえて、頭上の暗色の大気の中を、大きな鳥達が、変化する訳の分からない隊列に従って海の方へと飛んで行った。陽の沈む所の側の丘の鋭い線が溶け出して、曖昧になった様に見えた。

 「それから空が北の方で開花するのが見えた。そこに、黄金の垣根、青銅の門、不活発になった火を捕らえる大きな紫の壁を備えた、薔薇の園が現れた。地上に再び火が灯ったんだが、それは非自然的な宝飾された様な色をしていた。一番青白かった光は紅白白瑪瑙で、一番暗かったのは紫水晶だった。それから、谷が炎と燃えた。森の中の火、樫の木の下の生贄の火だ。平地の野原の火、北の大いなる炎上、南へ向かう、街の上空の猛烈な炎。静かな川の中には、他ならぬ火の光輝。そう、ありとあらゆる貴重なものが炉の池に融かし込まれたみたいな、金と薔薇と宝石が、炎になったみたいな感じだった」

 「その後は?」

 「その後は、夜の星の輝き」

 「そうすると君は」と友人は言った。「多分自分では知らずに、素晴らしい、信じられない様な熱情の物語を語ってくれたんだ」

 ジュリアンは驚いて彼を見詰めた。

 「全く君の言う通りだ」と漸く彼は言った。


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