『メビュラメイカー』
(Nebula Maker,1976)


 本書はそのタイトルからも推測出来る様に、ステープルドン最大の傑作『スターメイカ−』と密接な繋がりを持っている。『スターメイカー』はその初期の構想の段階に於ては、我々の宇宙の成り立ちがその儘の時系列に従って陳述されると云う形式を採っており、完成稿の前半部分に見られる様なヒューマノイド・タイプのものを含む所謂「宇宙人」達についての記述は存在しなかった。その代わりに、人格を持った星雲達の物語に該当する部分は改変の過程で削られてしまい、ステープルドン研究者のH.サッティーはこれを、より人間らしい登場人物達に多くの紙面を割くことによって、作品全体を読者により馴染み易いものにしようとしたのではないかと推測している。『スターメイカー』を読んだ者の中には、語り手の意識の拡大に伴って当然予想され得る星雲級の知性についての記述が希薄であることに違和感を感じた者もいるかも知れないが、本書『ネビュラメイカー』はその表に出ることのなかった部分を、未完成ではあるが独立した作品としたものである。分量としては初期の構想全体の約四分の一に相当するのだが、それ以外の部分は今日残されてはいない。書かれたのは1930年代中頃だが、原稿はステープルドンの死後になってから発見され、1976年に初版の運びとなった。

 内容は星雲生命体の進化の歴史をその誕生から絶滅まで綴ったもので、彼等の心理や社会形態、繁栄と没落が、ステープルドン一級の想像力豊かな筆致によって克明に語られる。〈輝く心 Bright Heart〉と〈火閃 Fire Bolt〉と云う二人の特筆すべき登場人物が現れて以降は求道的な色彩が強くなり、霊的な愛によって結ばれた真のコミュニティーの形成と究極の神に相当する存在(即ちこの作品では「星雲の創造者〔ネビュラメイカー〕」)の真意へと至る道のりと云うステープルドンが問い掛け続けたテーマが前面に押し出されることになる。『スターメイカー』に比べれば確かに規模は小さいが、本書はSFと云うジャンルを超えて、20世紀の想像力が生み出した最高の幻想のひとつと言える。



以下の文献、レビューも参照

 Nebula Maker (Bran's Head Books,1976)




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