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 時折起こる比較的小さな局地的衝突は〈世界警察〉によって容易に鎮圧されたが、それらを除けば人族は今や凡そ四千年に亘って単一の社会的単位であった。これら千年期の最初のものの間、物質的進歩は少なくとも急速ではあったが、最終的な分壊までにはそれに続いて小さな諸変化があった。人類の全エネルギーは、一定の水準でその文明の猛烈な日課を維持することに集中したが、それは更に三千年の惜しみない消費の後、動力の或る基幹的源泉が突然使い果たされてしまうまでのことだった。この今までになかった危機に対応出来るだけの精神的な機敏さは何処にもなかった。全社会秩序が崩壊した。

 我々はこの幻想的な文明の初期の段階は通り越すことにして、致命的な変化が感じられる様になる直前のその有り様を検べてみることにしよう。

 この時代に於ける人族の物質的状況は、その祖先達全員を、真の意味に於て遙かに文明化された存在であった者をも含めて、驚嘆させたことだろう。しかし我々〈最後の人類〉にしてみれば、文明に伴う物質的発達のこの非常に徹底した混乱の裡のみならず、誇示された物質的発達自体も我々自身の社会のそれと比べれば実際には不充分であると云うことの裡にもまた、極度の悲哀と、喜劇性さえもが存在する。

 実に全ての大陸が、今やひっきりなしに人工化された。博物館や公園として保護された多くの野生保護区域を除けば、ほんの一マイル四方の領土と云えども自然の状態の儘に放っておかれることはなかった。最早農業地域と工業地域の間に区別はなかった。全ての大陸が都市化された。勿論それはもっと前の時代の密集した工業都市の様な仕方でではなかったが、それでもやはり都市化された。工業と農業が至る所で相互浸透した。これが可能となったのは、ひとつには航空コミュニケーションの大いなる発達によるもので、またひとつにはそれに劣らず著しい建築術の向上によるものだった。人工的物質に於ける大いなる躍進は、ほっそりした塔の形をしたビルディングの建設を可能ならしめた。それらは屡々三マイルや、或いはそれ以上の高さにまで聳え、地下四分の一マイルに基礎を措き、大方差渡し半マイル以下の基平面*を占めていた。断面的に見れば、これらの構造体は屡々十字形をしていた。そしてそれぞれの階で、航空発着場を成す長い腕を持った十字路の中央部が、今やあらゆる成人の生活にとって欠くことの出来ぬものとなった小型の個人用航空機の為に、空中からの直接の経路を提供していた。来るべき時代の更に大いなる構造体を予言しているかの様なこれらの建築物の巨大な柱群は、様々な密度であらゆる大陸に散らばっていた。それらは、それぞれの高さよりも近い距離にまで互いに接近するのを許すことは稀だった。その一方で、北極地方を除けば、それらが二十マイル以上離れていることは殆どなかった。各地方の一般的な外見は斯くして、巨大な躯を抱えた、刈り込まれた木の幹で出来た疎林にかなり近かった。これら人工的な峰の中程の高さを屡々雲が囲み、或いはもっと低い階以外の全てを覆い隠した。頂上の住人達は、建築物で出来た急勾配の島々と一緒にあらゆる方角に点在する、煌めき輝く雲の海の光景に見慣れていた。上の階の高度はこんな具合だったので、時として単に人工的な暖房だけではなく、人工的な大気圧と酸素供給とをそれらの中に維持する必要があった。

 これら居住と工業の柱の狭間では、あらゆる土地が、農業や公園、野生保護区によって、季節的変化のある緑色や茶色をしていた。重貨物運送の為の広い灰色の大通りは、あらゆる大陸に網の目を張り巡らしていた。しかし軽輸送や乗客サービスは完全に航空化していた。人口の多い地域では全域に亘って、空中は五マイルの高みにまで上昇する飛行機で充満しており、其処では巨大な定期航空路が大陸間を繋いでいた。



* "a ground plan" と云う語は "a ground plane(基平面)" の誤植かと思われるので訂正した。




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