音の世界
(A World of Sound,1936)



 初出は Hotch Potch, Science Fiction Monthly Nov '74 (1936)。ステープルドンが幻視家タイプの作家だったと云うことが良く判る佳品。彼を他の幻視家達から際立たせている、感覚や感情を即物的な仕方で具体化してみせるその独特の手腕は、国書刊行会から出ている空前絶後の二邦訳作品によって御存知の方も多いだろうが、ここでは摩訶不思議な音の生態が美事に描かれている。音の生態 (、、 )を描こうなどと、そんな冒険を敢えて試みようとする作家が他にいるだろうか?

 余りにも呆気無い幕切れに戸惑いを覚える読者もおられるだろうが、それが却って寧ろスマートな余韻を残している。黒森は「こう云う、変に衒わず、目の覚める様な技工も凝らしていない、無防備なまでにあっけらかんと読者の前に曝された作品でこそ、その作家の幻視家としての本当の、何と言うか土性骨が露になる」とコメントしている。


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