船橋にて
(On the Bridge,1912)



 初出はSaturday Westminster Gazette (1912/04/20)。Men of the Deep Waters (1914)に収録。怪現象の全く出て来ない純海洋小説である。船の名前こそ明記されてはいないが、冒頭辞の日付けと位置、それに作中の時刻から考えて、本作に登場する豪華客船のモデルはタイタニック号と考えて間違い無いであろう。

 実際のタイタニック号で本作品の主人公に相当する人物がいるとすればマッケンジー一等航海士であろうが、作中では年齢が26か28となっているのに対し、マッケンジーの方は1912年当時40前で、交代したのも20:00ではなく22:00、命令を出したのも見張り番から報告が来てからである。またタイタニックであれば20:00から氷山と衝突した23:40までの間には何度も他の船舶から警告を受けている筈であるが、それらに関する記述は作中には一切見当たらない。また船客の数もタイタニックであれば一千人ではなくその倍以上である。

 タイタニック号の沈没は周知の通り全世界に震撼を与えたが、それがその後の海難事故対策に及ぼした影響を考えると、恐らく、ホジスンがここで描いている様な感慨は、広く海運業に携わる者一般に共有された感情ではないかと推測される。

 尚、作中で"port(side)"を「面舵(右旋回)」、"starboard"を「取り舵(左旋回)」と訳しているが、これは誤訳ではなく、1912年当時と現在とではその意味が逆転してしまっている為である。詳しくは、以下のリンク先を参照のこと。

 『タイタニックの世界』より「取り舵・面舵の意味が逆転したことについて」


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