ゴールト船長
(Captain Gault,1914-1917)


 全13篇から成る短編シリーズで、1914年から15年にかけて執筆されたが、1917年版の"Captain Gault"に収録されたのは十篇のみで、他の作品は「ガンボルト船長 Captain Gumbolt」の話としてそれ以前に別の本に収録されていたり、1996年まで日の目を見なかったりした。

 内容は、裏稼業として密輸をやっている英国人のゴールト船長が、毎回関税当局等を向こうに回してまんまとその裏をかくと云うもの。彼の許には屡々ひと癖もふた癖もありそうな客が仕事を依頼しに来るが、その客を出し抜くと云うパターンも多い。ホジスンにしては珍しく、超自然的な要素が一切出て来ず、また怪奇的なムードも比較的薄いと云う純然たる犯罪小説シリーズである。

 ジャンルとしては一応ミステリに入るのであろうが、使用されるトリックそのものは毎回同じ発想の使い廻しが多く、本格探偵小説のファンにはやや物足りないかも知れない。彼が得意とする手口は「摺り替え」で、日本の読者であれば、国書刊行会か角川文庫から出されている(いずれも絶版だが)『幽霊狩人カーナッキ』をに収録されている「発見」と云う作品を参照して頂きたい。この話は超常現象とは何の関係もない、これまた純然たる推理もので、世界中に一冊しか無い筈なのにもう一冊出て来たと云う触れ込みの贋物の稀覯本と、図書館に納められている本物の稀覯本とを予め摺り替えておいて、それらが比較検討された時に鑑定家達の疑いが贋物の方に向かない様にすると云うトリックが用いられている。これを手を変え品を変えしてバリエーションを持たせたものが、『ゴールト船長』で多く用いられている手口だと思って頂きたい。見方によってはややマンネリだが、逆に云えば毎回何時もの楽しさが保証されている訳で安心感がある。

現在邦訳があるのは次の一点のみ。
The Red Herring
 「陽動作戦」(厚木淳訳、エラリ−・クイーン編『完全犯罪大百科 下 —悪党見本市—』、創元推理文庫、1980所収)

現在入手可能なテキストは以下のみであるが、オンラインテキストでも幾つかの作品を読むことが出来る。「リンク集」を参照されたい。
Boats of the "Glen Carrig" and Other Stories(Night Shade Books,2003)



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