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 渡りの鋳掛け屋達のキャンプが、森の中心部から細く青白い煙を立ち昇らせた。

 メアリは、「あれこれ」を片付けている母親を残して、血の気の無い懈そうな顔で、暑い午後の中へと出て来たのだった。彼女は野原を突っ切って〈緑地〉へと歩いて行って、医者の娘とお喋りをすると言って来たのだったが、彼女は、窪地と、森の暗い雑木林へと向かって這っている別の径を選んのだった。

 要するに、彼女は気持ちを奮い立たせたり会話をする努力をしたりするのが面倒だったのであって、それに陽光が踏み越し段から踏み越し段へと茶色の八月の野原を横切って真直ぐ線を引く径を焦がすと、遠くからでも、白い塵芥雲が〈緑地〉の側の道の上に棚引いている様子が見えたのだった。彼女は躊躇ったが、結局、遠く広がる樫の木々の下を、足に冷たい揺れる草の道に沿って歩いて行った。

 彼女の母親は非常に親切で善良な人だったが、折節彼女に「誇張」の悪について、荒っぽい表現をした言い回し、余りにも凶暴なエネルギーを持った言葉を避ける必要について語って聞かせた。彼女は、数日前家に駆け戻って来て、庭園の中で「炎の様に燃える」薔薇を見せようと母親を呼んだ時のことを思い出していた。彼女の母親は、薔薇はとても綺麗だと言ったが、少し後になってから、「こんな強い表現」の見識に関する自分の疑問を仄めかしたのだった。

 「分かってるのよ、メアリ」と彼女は言った、「お前の場合、気取ってる訳じゃないんだよね。お前は実際言った通りのことを感じた (、、、 )んだろう? そうね、だけどそんな風に感じることはいいことかしら? それが本当に正しい (、、、 )ことだと思う?」  母親は、催促する様な奇妙な物悲しさを込めて、殆どまるで、もっと何か言いたいのだが、それに合う様な言葉を探してみたけれど見付からなかったと云った風に、少女の顔を覗き込んだ。それから彼女は(ただ )こう述べた。

 「お前テニス・パーティーの時から、アルフレッド・ムーアハウスには会ってないだろう? 次の火曜来てくれるようあの人に頼んで来なくちゃ。お前あの人が好きかい?」

 娘の方は、「誇張」についての彼女の過ちと、魅力的な若い法律家との間の関連が全く見えなかったのだが、影になった径を彷徨い歩き、足の周りの長く暗い草が冷たくて気持ちがいいのを感じていると、母親の警告が思い出されて来た。彼女はその感覚を言葉にしようとはしなかったが、それはまるで、豊かな草が自分の足首に触れると、優しく甘くキスされる様なものだと思った。母親ならば、そんなことを考えるのは正しいことではないと言っていたろうが。

 そして彼女の周囲全ての色彩が何をと云う歓びが溢れていたことか! それはまるで緑色の雲の中を歩いているかの様だった。強い日差しが葉々によって和らげられ、草に反射し、目に見えるもの全て、木の幹、花々、そして彼女自身の両手を、新しい、似た別の何かへと変容させていた。彼女は森の径に沿って何度も何度も歩いたことがあったのだが、今日、それは神秘と仄めかしとに満ち溢れ、どの曲り角も驚きを運んで来るのだった。

 今日は、木々の下にたった一人で居ると云うだけの感覚が重大な秘密の悦びとなり、もっと深くへと歩き入って周囲の森が暗くなって来ると、彼女はその茶色の髪を解いた。それから倒れた木の上で太陽が輝くと、彼女は自分の髪が茶色ではなく、青銅色と黄金色をしていて、彼女の無垢な白いドレスに映えて輝いているのが見えた。

 彼女は岩の中の井戸の側に佇み、思い切って暗い水面を鏡にして、恥ずかしそうに右や左を向いてちらちらと見、その黄金色を光り輝く象牙色と合わせる前に、枝分かれした大枝のカサカサ云う音に耳を澄ませた。影の落ちた謎めく池へと身を乗り出し、秘密を囁くかの様に唇を開いて微笑む妖精に微笑むと、鏡の中に驚異が見えた。


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