1661.
 人間が厭わしい。他人が厭わしい。自分もまた厭わしい。私をこの地上に縛り付けようとするもの全てが厭わしい。曾て自分が目にしていた風景がどんなだったかさえ、今はもう朧にかすんではっきりとは思い出せない。この塵俗の廃墟の中で、今日も私は少しずつ朽ちて行く。


1662.
 私が即自的な私であることを止めてもう随分になるが、今だに自分の被っている仮面がどんなものなのか見たことが無い。


1663.
 生を賦活するものは超越への欲求だ。未だ在らざる自分へ向かって現在を収斂させて行くこと、満たされるべき無の焦点として己が実存を旋回させること、絶えず視野の地平をその先へ、その先へと拡大して行くこと、それら無くして我々は己が生を手にすることは叶わない。抜け出ることの無い、停滞する生存は、己が存在を希釈し、撹拌し、散失させる。我々はこの倦怠の誘惑に終始脅かされているが。そこから生じる闘争に束の間の勝利は有り得ても、恒久的な勝利は有り得ない。そして闘争は我々の存在様式を緊張させ、張り詰めたものにしてくれるが、弛緩の瞬間を完全に免れる訳には行かない。それは運動としての生に付き纏う宿業であり、我々はこれを引き受けて生きねばならない。


1664.
 世の果てまで、微睡みの中で微笑んでいたい。夢の中で夢見ていたい。


1665.
 今日もまたぽっかりと口を開ける倦怠の淵を覗き込んで、相も変わらず私は立ち尽くす。驚異と超越とを要求する声は力を失って既に久しく、それでも死に体の儘生き続けようと精神は悪足掻きを続ける。


1666./center>  己以外のものへの逃げ続けることを止めた瞬間、私は窒息して死んでしまうだろう。
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