1594.
 恐怖と沈黙によって深淵を開示しようと人が真剣に試みている時に、連中のあのまるで無反省なけたたましい笑い声が響いて来る。奴等には本当に碌な使い道が無い。


1595.
 こちらがびっくりする程粗雑な感性と知性の持ち主達———私が彼等の為に何か骨を折ることが有るとしたら、それは彼等の豚の様な幸福を肥え太らせたいが為ではない。彼等より少しは増しな人種が彼等の子供達の間に少しは増えるようにと願ってのことだ。


1596.
 毎日が、汚辱の海で遠泳している様なものだ。足を着ける所は無いし、疲れても助けは来ない。しかも一瞬一瞬が私の持てる諸可能性に対する卑劣な裏切り行為なのだ。


1597.
 恐怖と怒りとが同一の対象を相手にしている内はまだ希望が有る。だがこのどちらか一方が焦点を外れてしまう時、人間ではない何かが始まる。


1598.
 幻滅は必然である。だが理想や憧れの無い人生など、生きる意味が有るだろうか。


1599.
 降雪、知的な刺激、得も言われぬ惨めさ───私の憂鬱を完成させる為の条件は幾つか揃っている。だがその為にはまだ足りない。時間と静けさとが、俗世の一労働者たる私には許されていないのだ。


1600.
 空転、空転、空転………一日一杯稼働して過熱気味に成るより尚悪い。余りの空ろさに灼き切れてしまいそうだ。
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