1588.
 この国では今だに戦争が行われている。少なくとも、戦争を想定した国家非常態勢が布かれている。「戦後処理」が六十年以上経っても核心部分では一向に片付こうとはしないのも、何等不思議なことではない。


1589.
 「最善の道は生まれないこと、次善の道は、生まれて来たら出来るだけ速やかにその生を終えること」と云う古代の哲人の名言に対しては必ず「じゃあ何でアンタはさっさと死んでしまわないでそんな呑気にグダグダ文句を垂れ流しているんだ」と云う茶々が入れられるものだが、そう非難する者達が見逃している点がひとつ有る。生まれるにしろ死ぬにしろ、ひとつの存在形態を別のものに転換する時には大変なエネルギーが要るものだ。それはそのエネルギーの向けられる先が自分だろうと他人だろうと、程度の差は有れ、ハードルが高めに設定されていることには変わりが無い。だが生まれる時にはこちらが望もうと望むまいと、母親と云う他人が、私を子宮の外へと引き摺り出そうと頼みもしないのに真ッ赤な顔をして渾身の力を振り絞って奮闘してくれるものなのだが、死ぬ時は基本的には自力に依らねばならず、誰も向こう側から必死に成っている私を連れて行こうといきんではくれないのだから、生まれることよりも死ぬことの方ずっと難しいのである。だからこそ、そもそも生まれないでいることこそが最善の道と見做されるのである。苦労するのは専ら母親であって、私ではないからだ。


1590.
 自分の言っていること、していることは完全に正しい、完全に筋が通っている、理屈に合っていると思いこんで疑わない連中は本当に手に負えない。常に条件付きで物事を考える習慣を身に付けていない者達と、一体どいうやったらまともな対話が成立し得ると云うのか。


1591.
 どうせ生きねばならないのなら、よりまともに生きたい。そうでなければやっていられない。だが、周りを見渡せば全てノーマル以下のものばかり………。


1592.
 給料:別名、賃金。近代以降、広く一般に使用される様になった拘束衣の一種。これひとつで鞭や鎖も兼用出来る為、各方面で何かと非常に重宝されている。


1593.
 私の言葉を奪う他人を殺してやりたいと思う。だが殺したら殺したで何かと面倒なことに成るのは判り切っている。最初から存在していないのか、或いは私の視界の外に居てくれるのが、一番都合が宜しい。
inserted by FC2 system