1567.
日々、頭痛の種は絶えること無く新たに生まれて来る。日々の生活が単調さに支配されてしまわないようにとの天の配剤だろうが、だが生憎なことに、殆んどの場合はそれらの余りの凡庸さの為に却って鈍り、灰色の帳が生活全体に垂れ込めてしまい、こんな日々なら一日過ごそうと千日過ごそうと同じことだとの感慨を抱くに至るのである。


1568.
部屋から一歩でも足を踏み出した途端、また人間であることを強いられる。この恥辱によく今まで耐えて来たものだと自分でも思う。


1569.
断片、欠片、バラバラ屍体………一貫して何者かであることが許されない。一個の独立した人格として、一人の自由な人間として存在し続けることが許されない。個々の場面を超越して考え、感じ、生きることが許されない。


1570.
正気であろうとする者にとって、今の世界は雑音が多過ぎる。これは議論の余地の無い事実だ。


1571.
この野放図に不合理が席捲する情景にも、必ず何か合理的な説明を与えることが可能な筈だ。但しその合理性は鑑賞者の合理性であって、行為者の合理性ではないであろう………。


1572.
屋上へと出る扉が施錠されている。死の誘惑と云う危険には、そもそも近付くな、天の高みに憧れるな、一生地べたを這い擦り回っていよとの管理者のお達しであろう。真に、文明の進歩なるものが悪魔との二人三脚で進んでいることの、これは良い証左であろう。


1573.
現代社会の悩みは尽きない。だがそれらの殆んどは富める者、恵まれた者の悩みであり、その悩みすら持つことの出来ぬ大勢の者が残っている限り、後回しにしても別にどうと云うことの無い問題である。先にどうにかすべきことは山程有るのだ。
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