1484.
"ALBEIT MACHT FREI"―――成る程、これは強制収容所の入口にこそ相応しい言葉である。人々は労働それ自体の為に働くのではない、自由を求めて働くのである。ならば、そもそも始めから自由を希求する社会を求めて何がいけないのだろう?


1485.
純然たる可能性の問題として、我々は既に手にしている強大な力を以てすれば、公民として疾っくに「~へ向けての自由」を享受していて然るべきである。しかし現実はと云えば、我々は今だに「~からの自由」から自由になってはいない。


1486.
「現実なんてそんなものだ」などと云う台詞を魔法の言葉にしてしまってはならない。それは問題を解決するのではなく単に隠蔽し、抑圧し、囲い込んで不可視にするだけである。まともな人間なら現実のその先を見るべきであり、その不条理さを問い質すだけの度胸を持つべきである。


1487.
この世の合理性の破綻を共有するあの連中が交わし合う、公然たる秘めやかな眼差しには、私は我慢がならない。連中が暗黙の裡に結んでいるのは市民としての契約ではなく、共犯者としての口約束である。


1488.
恋愛と云うものが存在の権利を認められるべきだとするならば、恋い焦がれる相手を殺害する権利もまた当然確保されておかなくてはならない。地上に降りた神が永遠性を手に入れる為には殺されなければならないものと相場が決まっている。


1489.
近代と云う理念が既に実現されてしまったと云う前提の上に立って「近代の超克」を語ることは、丁度ソ連が社会主義の理念を既に実現してしまった国家であると考えるのと同じ位馬鹿気ている。確かに表層的にはあの手この手で大いに喧伝され何かにつけて万能の口実として引っ張り出されては来るものの、その実根本ではまだ実現されるどころか、まだその入口すら碌に見付けられていないと云う有様なのだ。
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