1454.
何時も夢現だと人は私を非難するだろう。だが、この延々と延べ広がる卑賤醜怪な悪夢を現実と呼ばなければならないとしたら、その内意識の明晰さが失われて朦朧として来るのも無理からぬことではないだろうか。


1455.
私が今、根拠にも権利にも無頓着な儘様々な形而上的問題に気安く手を出してしまうのは、多感な若い頃から認識論上の根本問題群に没頭してしまっていた反動に因るものかも知れない。認識論上の根本問題群を考察すると云うことは謂わば火に近付く様なもので、近付くにつれてどんどん身を焼かれて苦しい思いをしなければならず、下手をするとすっかり焼け落ちてしまって灰すら残らない羽目に陥る。その結果として相対的に重要度を増したのが―――少なくともその主観的な価値と意義を問題にする限りは―――仮令空しい空中楼閣であろうとも、多少なりとも実りの実感を手にすることの出来る方面だったとしても、無理からぬことと多少は同情して貰えるのではなかろうか。仮令その怠惰と弱さと不誠実をこそ詰られるにしても。


1456.
世間様では今は「氷河期」なのだと云う。ならば私に出来ることと云えば、しっかり氷漬けになっておいて、何時かもっと温暖な気候の時代が訪れた時に誰かが見付けて掘り起こしてくれるのを希う位だ。


1457.
言論の自由と云うものが特権であることは誰もが知っている。それは力を持つ者か、他の様々な権利を失う覚悟の有る者のみに許されているのだ。


1458.
たまになら、家族を救済の手段にするのも確かに悪くない。だが、だからと云って私に嫁を貰えと勧めるのは間違っている。自分の人生をハリウッド映画の中に押し込めるなぞ真っ平御免である。


1459.
世界として世界を生きるのでなければ、何と空しいことだろう。
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