1411.
遠浅の海岸に横たわっている様だ。浅く緩慢な絶望が何処までも広がっていて、ひたひたと押し寄せて来るのに、逃げるどころか目を逸らすことすら出来ない。


1412.
安易な勝利は安物のコーヒーと同じだ。その刺激は確かに目を覚まし続けさせるものだが、その興奮は信じられない程に精神の柔軟性を奪い去って行く。


1413.
思考の交通整理能力は、明晰さの最も解り易い示標である。そこに平明さを付け加えることの出来る者は本物の天才だ。ひとつの精神が他の精神へ語り掛ける仕方は幾つもあるが、自らの格闘の結果を晦瞑さを排して判然と他者の前に曝すことなど、本物の阿呆を除いては、真に充実した思考の果実を自ら育て、食し、栄養としている者でなければ有り得ない。


1414.
数学は最も洗練された精神安定剤のひとつだが、果たしてそれ以上のものだろうか? と考え始めるや否や、それは寧ろ精神を攪乱させ、発狂へと追い込むとんでもなく厄介な呪いへと変貌する。


1415.
労働は自由を生む、卑賤な現実を直視する自由を。それは確かに不自由、と言うよりも没-自由の状態からの解放ではあるが、歓喜を伴う訳ではない。そこに期待出来るのは精々が気高さを求める粗野な意志であって、しかも勝利は初めから禁止されている。


1416.
ターレスは星々を見乍ら歩いていて井戸に落ちて奴隷女に笑われたが、星々の動きからオリーブの豊作を予測して大儲けをした。後半の部分が後に続く無数のスターゲイザー達には殆ど無縁だったことがつくづく残念だと、今日も満員電車で汗だくになり乍ら思う。
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