k-m industry
1339.
気にせずに芝居を完遂出来る者のみが幸福であり得るのだろうか? だとしたら、私には最初から望み無しだ。


1340.
世界を釣り逃す。いや、釣り逃されたのは私の方か。だからこんな言い方になるのだ。


1341.
やや細長い長方形に切った銀の紙片を一面に散らせた様な、幼少期や少年期の私の感受性が作り上げた記憶―――今となっては些細なことや取るに足らないことどもがもっと重大な意味を持ち、数々の神秘や脅威を孕んで深刻に受け止められていた時代の証明―――は、このすっかり鈍角ばかりで平らかになってしまった球の表面の下に、ちゃんとその一部分として溶け込んで沈み込んでいるのだろうか………。表皮を剝がしてみたら、実は全く別の奇怪な生き物の目がギョロリと睨んでいやしないか………何等かの卑劣な裏切りの結果として、私は今ここに居るのではないか………。


1342.
私は飽く迄無私でありたいと思う。と同時に、鏡の様な存在でありたいと思う。………両者を何とか矛盾無く和解させられないものかとあれやこれや悩んでいる内に、何時の間にやら食う為に安っぽいペラペラのお面を被る羽目になってしまった。


1343.
飢えに駆られて読む。読まなければ死んでしまう。戦慄が欲しい。恐怖が欲しい。この狂妄を丸ごと薙ぎ払ってくれるだけの喪失が欲しい。


1344.
小さな倦怠の中で、ぐるぐると渦を巻いて沈下し続ける。私の言葉は自分が生きていると云う嘘を吐くだけの為に有るのだろうか。


1345.
完成したひとつの体系に憧れる。だが私と来たら、四六時中至る所で破綻し、決壊し、氾濫して溢れ出す。ひとつのものとして存在出来ないことの悲哀、ひとつのものであることから逃れていることの陰微な哄笑。私は分裂し、増殖し、膨張し、そして片端から消えて行く。何時まで経っても何者であることも無く、何処まで行っても境界線が見えない。
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