1330.
一歩外へ出ると色々な声が聞こえて来る。世界は知るに値すると真摯な姿勢でたどたどしく述べている連中はまだいいが、碌な彫琢もせずに、世界は上っ面だけで享受するに値すると大声でがなり立てる連中には我慢がならない。襟首を掴まえられて、お前は一生ゾウリムシでいいと言う様な真似をされてどうして人々が満足していられるのか、私にはさっぱり理解出来ない。


1331.
音楽が世界を開示する。但し、ヘッドフォンの中で。


1332.
ひっそりと無為の裡に朽ちて行くよりは、狂騒の裡に追い詰められている方がまだ増しだ。後者は自分を見失って戸惑い慌てふためくだけで済むが、前者の場合、自分がのっぺりと希釈され水で薄め過ぎたカルピスの様にどうやっても味わえる様な代物ではなくなってしまう。大衆でいるよりは、日々狂気に怯え続けていた方が、まだしも生きている甲斐は有ると云うものだ。


1333.
私の体は、死者達――失われて行った者達、最早現前しない者達――によって出来ている。未だそこに居るのにそれが私の一部であるなどと云うことは全てまやかしに過ぎない。生者であるとは不確定な揺らぎの中に居ると云うことである。そして確定されていないものは、solidな実体を持った焦点とは成り得ない。このことは私個人の気質が大いに関係しているのだろうが、そうやって相対化してみたところで、依然としてそれが私にとっての事実であることには変わりが無い。


1334.
この世に関心を持たなくとも良い事柄なそ何ひとつ存在しない。但し、あの連中と同じ目線での話ではない。


1335.
三人寄れば静かに嘘が嗤い出す。


1336.
冷笑には知力が要る。微笑みには生命力が要る。そして本物の哄笑にはその両方が要る。
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