1306.
全宇宙で見出されるあらゆる法則、パターン、規則性は、全て我々の精神に根差している。我々の認知的限界を超えた如何なる関係性も、我々には決して知られることは無い。* ここに終わりの無い悪夢が始まる。我々の精神は、自らの枠組に則って自らの土台を貪り尽くしたとしても、まだ倦むことを知らないであろう。

*これは我々の外部に機械的な手段によって思考を移転した場合でも同様である。そもそも、それらの機械の枠組を作るのは人間の精神なのであるし、仮に新たな枠組を自分で設定出来る創発的機械と云うものが出来たとしても、その機械の中で何かが起ころうと、我々に知られるのは結局我々が知り得る限りのものでしかない(尤も、我々の生み出したものが我々の予測を超えて進化する可能性も考えられないことではないが、少なくともそれは現在のところ遠い未来の可能性に留まっている)。


1307.
全く誰とも顔を合わせずに済む生活が送れたらどんなにいいだろう。生活する為に人と付き合わずに済んだらどんなにか安らぐだろう。煩わしい人間関係などど云うものが存在しなければどれだけ穏やかでいられるだろう。人間は自分ひとりで手一杯だ。他の人間にかまけているだけの余力は私には無い。


1308.
恋と音楽―――不安と混乱を齎す狂気の入口であり乍ら、自分達はさも美と快楽をこの世に創り出しているのだと云う顔をしてふんぞり返っている。


1309.
半日でティッシュ一箱を使い切る経験をしてみれば、「精神的に死ぬ」と云うことがどう云った事態を指すか、骨の髄から理解出来ようと云うものだ。しかも癌やAIDSの類いならば多少の悲劇の雰囲気を身に纏うことも可能だろうが、涙と鼻水の中に埋もれているとあっては、尊厳もへったくれもあったものではない。


1310.
ひとつの事態に対して用意されるコンテクストはひとつではない。例えば、「(私に)赤い色(が見えている)」と云う事態に対して、進化論的、脳科学的、比較文化的説明がそれぞれ成立し得ると云う様に。この時、そのそれぞれを統一されたホロン的構造の中に組み込もうとする努力が為されなければならない。


1311.
浄化と救済の可能性を持っているのは夜の狂気の方だ。昼の狂気は唯々無残なだけだ。
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