1280.
曾て私のこうした渇えを癒してくれた星の本がどんな題名だったか、作者は誰だったか、どんな内容だったか、さっぱり思い出せない。まるでそんな仮染めの救済など初めから有りはしなかったかの様に、全てが混濁し、不鮮明だ。私は困惑して見せるが、それがポーズなのかどうかすら、私には判断が付かない。


1281.
圧政に対する戦いよりも長く、困難なのは、人々の無知と怠惰に対する戦いだ。只主が欲しいだけなのだと喚き散らす家畜共の怒号は、自由と尊厳を求める声に対して振り下ろされる拳よりも遙かに深刻で、排除し難い。


1282.
教育者は戦士である。だが無知に対する戦いは屢々容易に、無知へ向けての懐柔と弾圧に転位する(時には両者を区別出来ないこともある)。そして誰かがそのことを身を以て思い知ってからでは、被教育者にとっては遅過ぎることも間々ある。


1283.
私とは誰か。疾っくに憤死している筈だった一人の人間の残骸だ。


1284.
これまでずっと、誤魔化しごまかし生きて来た。これからもずっと、誤魔化しごまかし生きて行くことだろう。本当に生に値するものなど、この地上には何ひとつ有りはしないからだ。


1285.
完全なる三人称は、独り全知全能の創造主に許された特権だ。神ならぬこの身としては、あれ (、、 )とかこれ (、、 )とか、不完全な誰かの視点にしがみついて、哀れに慈悲を請うより他に仕方が無い。


1286.
日夜、身体を仮想化することに血道を上げる。生身の肉体は悉く障害物であるか、精々が良くて切り刻んで分解して料理する為の素材に過ぎない。こうして私は現実であるべき (、、 )ものを生きようとするが、残念なことに今の所、その全き成就を見るのは重苦しい悪夢に於てのみである。


1287.
生きている様に振る舞わねばならない。死んでいることに気付かれてはならない。取分け、財布の紐を握っている観客を前にしている時には。
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