1250.
「考えるな、疑問を持つな、働け、消費せよ、姿勢に於ては満ち足りてあれ、行動に於ては貪欲であれ」と、実に安っぽい強迫的な暴力にこれだけ大量に四六時中晒されていると云うのに、大多数の人々は抗議の声を上げるどころか喜んで言いなりになり、怒りの拳を上げた少数者を耳障りな調和を掻き乱す元凶として迫害する。私はこれでも余計なトラブルを誘い込まないようにと必死になってこの画一化されたけばけばしい風景の中に溶け込もうとはしているのだが、やはりうんざりしていると云う雰囲気が全身から滲み出してしまっているらしい。私は差詰め現代の受難者だが、まさかこんな軽薄な受難者になろうとは!


1251.
会話:内省へ反動の弾みを付ける為に行われる独語の一形式。


1252.
「仕事」をする。そもそも何かをする (、、 )と云う屈辱、その中でも取分け下らないことをしなければならぬ、その屈辱の余りの惨めさに打ち震え涙を流しそうにならぬ日の、一日とて無い。しかもその一切合財が、この腹立たしい肉の塊を養う為と来ているのだ。


1253.
必要があって作り出された笑顔は、害意ある威嚇と同じことだ。どちらも心を縛り付ける。


1254.
吐きそうな位に退屈だ。不眠の夜の如く果ての無い自問と空想が、自壊作用を惹起し、やがては精も根も尽き果てた嫌悪感がのっぺりと一面に広がる不毛な風景が全てを圧し、ぐずぐずに溶かし去って行く………。


1255.
若し私から私を自由にしてくれる者があれば、千金を呉れてやってもいい。いや、そんなものは無いが、とにかく私が持ち合わせている全てをだ。


1256.
四つのイドラを全身で体現している様な素朴な実念論者に会う。成る程、あの絵に描いた様な得体の知れない喜怒哀楽は、極度の鈍感さに因るものなのか。
inserted by FC2 system