1236.
世界を理解し説明しようとするあらゆる言説や行為———意志の寂滅を説くものも含めて———を、ニーチェ風に言えば「権力への意志」、そう言って差し支え無いのであれば、些か射程は遠いが、根本的には自らの生存をより確かなものにしたいと云う極めて単純な欲求に根差すものの発露と見ることは出来ないことではない。だがそんなことをしたからと云って、だからどうだと云うのだろう。波についてうだうだと悩み続けているよりも、波乗りの仕方についてあれこれと工夫を凝らしてみた方がずっと楽しい


1237.
始めに言葉が在った———そうした創世は確かに在った。だがそれのみを有り得た唯一の創世と思い込むのは狂気の沙汰だ。


1238.
剥製ではなく生体を、静かな水槽ではなく流れる川を、作り上げられた成果ではなく生み出された作品を、意味論的なレベルで物語ってみること、生きてみること。


1239.
理想化された自己像の無残な残骸達がぞろぞろと街中を歩いている。自分達が戯画であることに気付いていないあの連中の顔と云ったら!


1240.
旅慣れた憂鬱や無力感を小脇に抱えた苛立ちと何年連れ添っていたとしたとしても、退屈のこの新鮮さはまるで衰えることが無い。


1241.
奴隷の境遇には甘んじよう。他に仕様が無いのだから。だが、笑顔の奴隷に成るのはマッピラ御免被りたい。不愉快を悦びと感じるなどと、それは一体何処のイカレた倒錯野郎だ。


1242.
誰もが、どれだけの眼差しが溢れ返っているのか全く知らずに、関心さえ持たずに、目の前を通り過ぎて行く、この信じられない様な光景。
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