1195.
「在る」ものとしての、即ち、不変項又は既定項としての我と、「成る」ものとしての、即ち、可変項又は未定項としての我との違い、もう少し正確を期して言い換えれば、両者を語る時の語り口の違い、詰まり存在論的に語るか認識論的に語るか、与えられたものとして語るか与えて行くものとして語るか、既に見出されたものとして語るかこれから見出して行くものとして語るか、の違いには気を付けておかなければならない(「成る」ものとして存在論的に語る方法もあるが、ここでは省く)。両者の混同は広く一般に認められるところであり、我々が死の瞬間になって、自分の人生は全て丸っ切りの誤解だったと悟る情け無い悲劇の種となっている。


1196.
徹底した認識論の実行は、変質者か、大衆に成れない者のすることである。そうした者は神経を病んでいるかその直前であるので、見掛けたら精々同情してやるか、さもなくば隔離の準備をしておくことである。


1197.
同志と云うものは心強いものだ�冪�:ぢ仮令それが実効力の有る抗議や抵抗に於てではなく、無力な悪罵や呪詛に於てであったとしても。


1198.
治安:強制される笑顔と満足の度合いを示すひとつの尺度。対象が富裕な場合と貧しい場合とでは測定方法が全く異なる。


1199.
笑顔:権力を持たぬ身分の者が保身と自己防衛の為に用いる防御用の武器。涙と比べると効力の強度は劣るものの、極めて汎用性が高い。使用者には極めて高い負荷が掛かる為、手っ取り早いマインドコントロールの手段として用いられることも多い。


1200.
不満を口に出して言う権利は、民主主義の根本原理のひとつである。私としては、個人的には出来ればそれを口調や表情に出して表す権利にまで拡張して欲しいところだ。我々がどんなに非人間的な全体主義的社会に生きているかは、一寸そこらのファーストフード店にでも入って、安い時給で扱き使われる使い捨ての若者達から発せられる気味の悪い位の愛想笑いと卑屈な挨拶を目にすれば直ぐ判る。不快を軽減する為の努力は、文明を推進させる為の必要不可欠の要素である。だがひとつの不快の抑圧によって他の不快を軽減するなどと云う小手先のマヤカシは、凡そ事態の欠点を隠蔽するものでしかない。


1201.
社会:刑期が定められていない監獄。ここに収容されている受刑者のことを「社会人」と呼ぶ。


1202.
日々、益々愚鈍に成って行く。死んだ魚の様に悪臭を放って腐って行く。


1203.
この愚劣さは君の心の中にではない、世界の中に宿っているのだ。この程度のことも理解出来ないようなら、君は登った山から下りて来ることは永久に出来ないだろう。
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