1123.
自然界に於ける何等かの秩序には、必ずランダム性が付き纏うものだ。だが幸か不幸か、それを認識する我々の眼差し自体が、元々ランダム性に侵食されているものなのだ。これは秩序認識を生み出すと云う点に於ては非常に喜ばしい、力強い事実なのだが、しかし世界にはより単純で普遍的な秩序が有り得る、と云う点に於ては恥ずべき頽落に他ならない。


1124.
ひとつ利口になる毎に、ひとつ幸福から遠ざかって行く。


1125.
凡そ現存している中では最も複雑化した脳を持っている生物として、目の前にあるものに気が付かないでいると云うことは、大変な怠慢であり、罪悪ですらある。無知でいること、無知であり続けること、無知でいさせること、無知でい続けさせること、これらは皆義務の不履行であり、宝の持ち腐れである。


1126.
 沈黙を表す為に沈黙を描くのか。
 沈黙の不在を表す為に沈黙を描くのか。
 沈黙を表すことの不可能性を表す為に沈黙を描くのか。
 沈黙の不在を表すことの不可能性を表す為に沈黙を描くのか。
 別種の沈黙を作る為に沈黙を描くのか。
 別種の沈黙の不在を作る為に沈黙を描くのか。
 別種の沈黙を作ることの不可能性を証明する為に沈黙を描くのか。
 別種の沈黙の不在を作ることの不可能性を証明する為に沈黙を描くのか。

 ———どれを取るかはその時の気分でお好み次第だが、私としては性分的に、表される対象を単なる対象として捉えることに対して困難を覚えると云う点に於ては変わりが無い。


1127.
閉塞した状況に追い込まれた大衆が望むのは変化それ自体であって、その変化の結果、状況が更に悪化しようと改善されようと、それは彼等の関心の及ぶところではない。この嘆かわしい思考停止は別に珍しいことではないが、結果的に被害者となるのが彼等自身だけではない上数が多いのでタチが悪い。


1128.
自分の存在だけでも我慢がならないのに、何故わざわざ他の臨在にまで耐えねばならないのか。


1129.
そもそも、私が奴等の下らん現実に付き合ってやらねばならぬ義理などこれっぽっちも無いのだ。有るとすれはそれらは全て、私とて食わねばこの肉体を維持して行くことが出来ぬと云う、極めて即物的な要求に源を発している。
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